「ホンダが上場来初の赤字見通しへ」このニュースを見て、正直かなり驚いた人も多いのではないでしょうか。かくいう私もその一人です。なぜなら、私はこのニュースの少し前に出た減益発表を見て、「これ以上悪いニュースはもう出ないだろう」と思って手を出したからです。
ところが、その後にこのニュースが出て、株価はさらに一段下げました。悲しみです。
だからこそ、今回はこのタイミングでホンダをしっかり分析してみようと思いました。
ニュースの概要としては2026年3月、本田技研工業は通期業績予想の修正を発表し、最終損益が赤字となる見通しを示しました。背景にあるのは、単なる販売不振ではなく、電動化戦略そのものの見直しです。北米で予定していた一部EVモデルの開発・投入を中止し、それに伴う損失を計上。あわせて、EV市場の鈍化や政策変更、競争激化といった環境の変化も明確に示されました。
一方で、こうしたネガティブなニュースを受けて、株価指標に目を向けると、ホンダは現在PBR1倍割れ、しかも4月時点は0.4倍台の水準に位置しています。赤字見通しという強烈な悪材料に加え、権利落ち後の需給悪化も重なり、直近の株価は下落基調にあります。しかしこれらはすでに悲観が織り込まれている可能性もあります。
果たしてホンダは「落ち目の銘柄」なのか、それとも長期投資の観点で仕込みを検討できる局面なのか。
本記事では、ホンダの業績推移、事業構造、そしてEV戦略見直しの背景を整理しながら、投資対象としての魅力とリスクをじっくり分析していきます。
会社概要|二輪・四輪を軸に広がる事業基盤
本田技研工業(Honda)は、1948年9月に設立された日本を代表する輸送機器メーカーです。本社は東京都港区虎ノ門に構え、現在は三部敏宏氏が社長を務めています。
事業の中心は、二輪車・四輪車・パワープロダクツの3つに分かれており、バイクから自動車、さらには発電機や芝刈機といった生活に密着した製品まで幅広く展開しています。特に二輪車事業では世界トップクラスの販売台数を誇り、グローバル市場における圧倒的な存在感が強みです。四輪車においても北米を中心に安定した収益基盤を持ち、世界中で事業を展開する企業へと成長しています。
企業理念
こうした事業の根底にあるのが、「Hondaフィロソフィー」と呼ばれる企業理念です。これは単なるスローガンではなく、従業員一人ひとりの行動や意思決定の基準として位置づけられています。その中核となるのが「人間尊重」と「三つの喜び」です。
「人間尊重」は、個々の能力や個性を大切にし、自立した人材を尊重するという考え方であり、「三つの喜び」は「買う喜び・売る喜び・創る喜び」を通じて、関わるすべての人に価値を提供するという思想です。この理念は製品開発だけでなく、企業文化や組織運営にも深く根付いており、ホンダの競争力の源泉となっています。
沿革を振り返ると、ホンダは静岡県浜松市の小さな工場からスタートしました。創業期には二輪車の製造で成功を収め、その後は海外市場への進出やレース活動を通じてブランド力を高めていきます。さらに四輪車事業へと領域を広げ、現在では世界中で事業を展開するグローバル企業へと成長しました。
特に、モータースポーツで培った技術力は現在の製品開発にも活かされており、「技術のホンダ」としてのブランドを確立しています。
過去五年の業績推移|伸びる売上、安定しない利益
以下は、最新の有価証券報告書(2025年3月期)に掲載された「連結経営指標等」をベースに、直近期末から遡って5年分(2021年3月期〜2025年3月期)を整理したものです。 ROE・PBR・PERは、期末データとしてIRBANKの年度末指標を採用しました。 (単位揃え)売上高・利益は有報の百万円表記を億円に換算して四捨五入、比率・倍率は原表記を採用しています。
| 年 | 売上高 (兆円) |
税引前利益 (兆円) |
自己資本比率(%) | ROE(%) | PBR(倍) | PER(倍) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2021年3月期 | 13.17 | 0.91 | 41.4 | 7.24 | 0.63 | 8.71 |
| 2022年3月期 | 14.55 | 1.07 | 43.7 | 6.75 | 0.57 | 8.48 |
| 2023年3月期 | 16.91 | 0.88 | 45.3 | 5.82 | 0.52 | 9.14 |
| 2024年3月期 | 20.43 | 1.64 | 42.6 | 8.72 | 0.72 | 8.37 |
| 2025年3月期 | 21.69 | 1.32 | 40.1 | 6.78 | 0.47 | 7.51 |
各年度の解説
2021年3月期
この年は、新型コロナウイルスの影響を強く受けた年度でした。
有価証券報告書でも、販売台数の減少や各国での行動制限などを背景に、売上の減少が確認できます。
一方で特徴的なのは、利益がしっかり確保されている点です。販管費の削減やコストコントロールが進んだことで、営業利益・税引前利益は増加しています。
つまりこの年は、「売上が落ちても利益を守れる体質」が見えた一方で、コスト削減に依存した利益でもあり、売上減少が続けば持続性には限界があることも示した局面でした。
2022年3月期
2022年は業績が素直に回復した年です。
半導体不足や原材料高といった逆風はあったものの、二輪・金融サービスの増収や為替の影響により、売上・利益ともに増加しました。
この年のポイントは、売上と利益が同時に伸びていることです。
前年のようなコスト削減頼みではなく、事業そのものの回復が利益に結びついており、「正常な成長軌道に戻った」ことが確認できる年度でした。
2023年3月期
この年は売上が伸びた一方で、利益は減少しました。
有価証券報告書では、販売影響による利益減少や製品保証費用の増加、コスト上昇などが主な要因として挙げられています。
ここで重要なのは、「売上が伸びても利益は伸びないことがある」という点です。特に四輪事業では、品質費用や保証費用が利益を大きく左右する構造があり、この年はそのリスクがはっきり表れた局面でした。
2024年3月期
2024年は業績が大きく改善した年です。
自動車販売の回復や為替の追い風により売上が大きく伸び、それに加えて価格改善やコスト管理が利益を押し上げました。
その結果、税引前利益は1.6兆円まで回復し、収益力が一段と改善した年度となりました。この水準は、ホンダの収益力が比較的素直に発揮された場合の実力値に近く、投資家にとっては「どこまで稼げる会社なのか」が見えた重要な年だったと考えられます。
2025年3月期
2025年は売上がさらに伸びた一方で、利益は再び減少しました。
増収の主因は二輪の好調と為替影響ですが、利益面では研究開発費の増加や、四輪の製品保証に関する見積りモデル変更などがマイナスに働いています。
ここで注目すべきなのは、会計上の見積りや品質費用だけでも利益が大きく動く構造です。この結果、ROEは低下し、PBRも0.47倍まで下落しており、市場が四輪の収益の不安定さを強く意識していることがうかがえます。
配当と配当性向(過去5年)
次に、過去5年間の配当金と配当性向の推移を見ていきます。
データは有価証券報告書の「提出会社の経営指標等」をベースに整理しています。
※見た目上は2024年3月期126円から2025年3月期68円へ大きく減ったように見えますが、2023年10月1日の1:3株式分割の影響を含むため、単純比較には注意が必要です。
| 年 | 1株当たり配当金(円) | 配当性向(%) |
|---|---|---|
| 2021年3月期 | 110 | 50.9 |
| 2022年3月期 | 120 | 42.3 |
| 2023年3月期 | 120 | 32.3 |
| 2024年3月期 | 126 | 48.1 |
| 2025年3月期 | 68 | 34.2 |
配当の推移を見ると、基本的には維持〜緩やかな増配を軸にしていることがわかります。
一方で、配当性向は30〜50%程度のレンジで推移しており、利益水準に応じて柔軟に調整されている点が特徴です。
注目したいのが、直近の戦略見直し局面での配当方針です。2026年3月期の業績予想修正では、EV戦略見直しに伴って業績が下振れする見通しとなった一方で、配当予想は据え置きとされました。
背景には、ホンダがDOE(株主資本配当率)を基準とした安定的・継続的な配当方針を掲げていることがあります。
したがって今後は、単に利益の増減だけでなく、資本効率や自己資本とのバランスも含めて還元方針を見る必要があります。
事業内容と売上構成
ホンダの事業を理解するうえで大切なのは、「自動車会社」とひとくくりにしないことです。
たしかに一般のイメージでは四輪車の会社という印象が強いのですが、実際の開示資料を見ると、ホンダは 二輪・四輪・金融サービス・パワープロダクツ等の4つの事業で成り立っています。会社の決算資料でも、この4分類を基本に業績が開示されており、それぞれ収益の出方がかなり異なります。
2025年3月期の売上高構成を見ると、中心はやはり四輪事業です。四輪の外部顧客向け売上高は約14.2兆円で、全体の約65%を占めています。次いで二輪が約3.6兆円で約17%、金融サービスが約3.5兆円で約16%、パワープロダクツ等が約0.39兆円で約2%という構成でした。つまり、売上規模だけを見るとホンダは四輪が主役です。
ただし、投資家が本当に見るべきなのは、売上の大きさだけではありません。
どの事業がしっかり利益を生み出しているのかを見ると、ホンダの姿はかなり違って見えてきます。2025年3月期のセグメント利益では、二輪事業が6,634億円で最大となっており、全社営業利益1兆2,134億円の過半を支える存在でした。一方、四輪事業のセグメント利益は2,439億円にとどまり、売上規模の大きさに比べると利益面での存在感はやや薄くなっています。
つまりホンダは、四輪が売上の柱であり、二輪が利益の柱であるという二層構造を持つ会社だといえます。
この構造を理解すると、ホンダのニュースの見え方も変わってきます。
たとえば四輪のEV戦略見直しや北米の販売環境悪化は確かに大きな材料ですが、会社全体がすぐに揺らぐわけではありません。なぜなら、二輪事業が非常に高い収益力を持ち、全社の稼ぐ力を下支えしているからです。逆に言えば、四輪ばかりを見ているとホンダの実力を見誤る可能性があります。
二輪事業
まず二輪事業は、ホンダの原点ともいえる分野です。
会社の歴史をさかのぼっても、ホンダはバイクメーカーとして成長し、その後に四輪へ広がっていきました。現在でも二輪は世界的に極めて強く、ホンダの統合報告書では、2025年3月期の販売台数は2,057万台、世界シェアは約40%と説明されています。さらに、23の国と地域に37の生産拠点を持ち、3万を超える販売店ネットワークを通じて世界中に製品とサービスを届けています。
二輪事業の強みは、単に台数が多いことだけではありません。
新興国を含む幅広い地域で日常の移動手段として強い需要があり、地域によっては「ぜいたく品」ではなく「生活必需品」に近い存在です。そのため、景気の影響を受ける場面はあっても、四輪に比べると需要の土台が比較的厚いのが特徴です。決算資料でも、2025年3月期の全社増収には二輪事業の伸びが大きく寄与したと説明されており、Hondaの稼ぐ力を支える中核事業であることが分かります。
投資の視点で見ると、二輪は「成長事業」であると同時に「キャッシュ創出事業」でもあります。
四輪が大型投資や開発費、品質費用などで利益がぶれやすいのに対して、二輪は比較的安定して利益を稼ぎやすい構造を持っています。このため、将来の電動化投資や株主還元を支える原資としても重要です。ホンダを見るときに「二輪はおまけ」と考えてしまうと、本質を外してしまいます。
四輪事業
一方で、売上の中心にあるのが四輪事業です。
ホンダの四輪は乗用車だけでなく、SUVや小型車、各地域に合わせたモデル展開を含む大きな事業群で、北米を中心に強い販売基盤を持っています。売上高では全体の約65%を占めており、規模感という意味では間違いなく会社の中心です。
ただし、利益面では注意が必要です。
2025年3月期は売上こそ大きかったものの、セグメント利益は二輪に大きく及びませんでした。
会社資料では、営業利益が前年より減少した背景として、研究開発費の増加に加え、自動車の製品保証引当の見積もりモデル変更によるマイナス影響が127.6億円あったことも示されています。四輪はもともと競争が激しく、販売奨励金、品質費用、原材料価格、関税や為替、政策変更などの影響を受けやすい事業です。売上は大きくても、必ずしも利益が厚いとは限りません。
そして足元で最も注目されているのが、この四輪事業の電動化戦略の見直しです。
ホンダは2025年の開示で、電動化戦略に向けた投資・研究開発費の総額を、2031年3月期までに10兆円から7兆円へ3兆円減額すると説明しています。背景には、カナダで計画していた包括的なEVバリューチェーン構築の延期などがあり、電動化への進み方をより現実的に見直す動きが読み取れます。
この見直しは、ホンダがEVを諦めたというより、HEVで収益を確保しながらEV投資のタイミングを見直す方向へ舵を切ったと見る方が自然です。詳細は後段の中期戦略で整理します。
四輪事業は今後もホンダの規模を支える中核ですが、投資家目線では「売上の大きさ」よりも「利益率が戻るか」「電動化投資を無理なく進められるか」が重要な論点になります。
金融サービス事業
ホンダの事業を見ていて意外に感じる人が多いのが、金融サービス事業の大きさです。
2025年3月期の売上高は約3.5兆円で、二輪に近い規模があります。決算資料では、この事業について、主に自動車販売を支えるための小売ローンやリースを提供する事業だと説明されています。つまり、車を作って売るだけでなく、買いやすくする仕組みまでグループ内で持っているわけです。
この事業の役割はかなり重要です。
自動車は高額商品なので、販売台数を伸ばすうえでは金融の存在が欠かせません。ローンやリースを通じて購入のハードルを下げることで、四輪販売を後押しできます。つまり金融サービスは、単独でも収益を生む一方で、四輪事業の販売支援という意味でも大きな価値を持っています。製品ビジネスとは違い、金利環境や信用コストの影響を受けやすい点はありますが、そのぶん収益の性格が異なるため、事業ポートフォリオの安定化にもつながります。
投資家としては、この金融サービスを「おまけの子会社」と見ないことが大切です。
四輪販売が弱いときでも、保有債権やリース資産から一定の収益を上げられるため、同社全体の収益構造を補完する存在になっています。特に自動車産業は景気循環の影響を受けやすいため、こうした金融収益を持っていることは、事業の厚みとして評価しやすいポイントです。
パワープロダクツ等事業
パワープロダクツ等事業は、売上構成比で見ると約2%と小さく、全体の中では脇役に見えます。
ただ、ホンダのものづくりの幅広さを象徴する分野でもあります。会社概要では、発電機、芝刈機、汎用エンジンなどが主要製品として挙げられており、生活や産業の現場を支える製品群が含まれています。さらに決算資料では、この区分に航空機・航空機エンジンなどの事業も含まれていることが示されています。
規模は大きくないものの、この事業はホンダが単なる自動車メーカーではなく、幅広いモビリティ・動力ソリューション企業であることを示す存在です。将来の成長ドライバーとしてすぐに期待する分野ではないかもしれませんが、新規事業や技術展開の受け皿として見ると意味があります。特に航空機分野などはまだ利益面で波がある一方で、長期的にはブランドや技術の広がりを示す材料にもなります。
業界環境と将来性|電動化と競争激化の現在地
自動車・モビリティ業界の現在地
現在の自動車業界は、これまでにない大きな変化が同時に進んでいる局面にあります。
主な変化としては、EV・HEV・PHEV・FCVといった電動化の進展、ソフトウェア価値の拡大(SDV化)、安全技術や自動運転支援の進化、そして地政学リスクやサプライチェーンの変化が挙げられます。
実際の統計を見ても、世界の自動車生産や販売は地域ごとのばらつきが大きくなっています。国際自動車製造者協会(OICA)のデータでは、年次・四半期ごとに世界生産が公表されていますが、国や地域によって回復のスピードが異なる状況です。
また、日本国内に目を向けると、日本自動車工業会の資料では、2024年の自動車生産は約823万台と前年から8.5%減少しており、必ずしも順調とは言えない環境にあります。
電動化市場の伸びしろと「揺れ」
電動化の流れは、長期的には明確に拡大しています。
国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、2024年の電気自動車(EV)の販売台数は1,700万台を超え、全体の販売シェアも2割を超えました。
さらに、2025年第1四半期だけでもEV販売は400万台を超え、前年同期比で約35%増とされており、中期的には普及が進んでいることがわかります。
ただし、短期的には状況が少し異なります。
EV市場は政策や補助金、金利、価格競争の影響を強く受けるため、需要が大きく変動しやすい特徴があります。実際、直近ではEV販売の減速を示す報道も出ており、「一直線に成長する市場ではない」という現実も見えてきています。
このように、
- 長期:電動化は確実に進む
- 短期:需要は政策や環境で揺れる
という二面性があることが重要です。
この環境では、メーカーにとって大規模な設備投資や研究開発投資の回収リスクが高まりやすく、戦略の柔軟性が競争力を左右する時代になっていると言えます。
主要リスクとトピック
自動車業界の難しさは、単に「売れるかどうか」だけではなく、コストや制度、競争環境の変化が大きい点にあります。特に重要なポイントは以下の4つです。
まず一つ目は、政策や関税、補助制度の変化です。
企業の説明資料でも、米国の関税政策の変更などが業績に影響を与える可能性として挙げられており、外部環境による不確実性は非常に高いと言えます。
二つ目は、中国を中心とした競争環境の変化です。
中国メーカーはソフトウェアを重視したEVで存在感を高めており、価格競争や開発スピードの面でグローバルメーカーに大きな影響を与えています。この流れは、減損や事業再編を促す要因にもなっています。
三つ目は、SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)への転換です。
これまでの「ハード中心」の価値から、「ソフトウェア中心」へと顧客価値が移りつつあり、開発体制や人材投資のあり方も大きく変わっています。
四つ目は、品質や保証費用のリスクです。
実際に過去の決算でも、保証費用の増加が利益を押し下げる要因となっており、2025年3月期においても保証見積りの変更が利益に影響しています。
ホンダの立ち位置
こうした業界環境の中で、ホンダの特徴は「二輪の安定収益」と「四輪の再構築」が同居している点にあります。
二輪はすでに世界トップ級の事業基盤を持つ一方、四輪は電動化戦略の見直しや収益構造の再設計が進む局面にあります。したがってホンダ株は、安定事業を土台にしながら変革余地を抱える銘柄として見るのが自然です。
競合比較|トヨタ・マツダ・スバルと何が違うのか
以下は、同業(輸送用機器・完成車系)として、トヨタ自動車株式会社、マツダ株式会社、スバル株式会社を比較対象に設定し、最新の期末(各社2025年3月期)をベースに整理したものです。
ROE・PBR・PERはIRBANKの期末指標(年度末)を採用しています。
(注意)利益の欄は「経常利益または税引前利益」です。IFRS採用企業は税引前利益を使用しています。
| 企業 | 売上高 (兆円) |
経常利益 税引前利益 (億円) |
営業利益 増減率(%) |
ROE(%) | PBR(倍) | PER(倍) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 本田技研工業 | 21.69 | 13,176 | -12.2 | 6.78 | 0.47 | 7.51 |
| トヨタ自動車 | 48.04 | 64,146 | -10.4 | 13.26 | 0.95 | 7.28 |
| マツダ | 5.02 | 1,890 | -36.2 | 6.37 | 0.33 | 5.2 |
| スバル | 4.69 | 4,485 | -13.4 | 12.45 | 0.71 | 5.77 |
各社の解説
トヨタ自動車
トヨタは1937年設立の日本最大、世界最大級の自動車メーカーで、主力は自動車の生産・販売です。加えて販売金融も大きく、金融サービスは販売を支える重要な収益源になっています。
特徴は、ハイブリッド車を含む幅広い商品力と、地域分散された巨大な販売網、そして利益の厚さです。
2025年3月期は売上高48.0兆円、税引前利益6.41兆円と規模は圧倒的でしたが、営業利益は前期比10.4%減で、前年が強すぎた反動もありつつ、依然として高いROEと高水準の収益力を維持しています。
マツダ
マツダは1920年創業、広島に本社を置く完成車メーカーで、乗用車・商用車の製造販売を主力としています。規模ではトヨタやホンダより小さいものの、デザイン性や走る楽しさを重視したブランド戦略に強みがあり、北米市場の存在感が大きい会社です。
2025年3月期は北米での販売増を背景に売上高が過去最高の5.02兆円となりましたが、営業利益は前期比36.2%減、経常利益も1,890億円まで落ち込みました。売上は伸びている一方で、販売奨励金やコスト増が利益を圧迫しており、「成長しているのに利益が削られる構造」が見える決算となっています。
決算資料では、販売増や為替の追い風があった一方で、販売奨励金の増加、原材料・物流費、R&D強化などが利益を圧迫したと説明されています。
スバル
スバルは1953年設立で、主力は自動車事業ですが、航空宇宙事業も持つのが特徴です。自動車では水平対向エンジン、シンメトリカルAWD、EyeSightといった独自技術がブランドの核になっており、北米での強さが目立ちます。
2025年3月期は売上高4.69兆円、税引前利益4,485億円で、規模はホンダより小さいものの収益性は比較的高い水準を保ちました。
もっとも、決算では新型車投入や価格施策、為替の追い風があった一方、海外での競争激化による販売奨励金の増加と販売台数減で、営業利益は13.4%減、税引前利益も15.8%減となっており、北米依存の強さがそのまま業績変動要因にもなっています。
中期戦略と成長ドライバー|EV見直し後の勝ち筋は?
まず整理しておきたいのは、ホンダは日本企業でよくある「数表中心の単独中期経営計画」を前面に出すというより、2025 Honda Business Briefing、統合報告書、CFOメッセージを通じて、中長期の資本配分と収益の作り方を示している会社だという点です。
そこから読み取れる中期戦略の骨格はかなり明確で、要するに「二輪で稼ぐ」「四輪はHEVを軸に立て直す」「EVとソフトには投資を続けるが、タイミングは柔軟にする」という形です。
会社全体の財務目標としては、2031年3月期に全社ROIC10%以上を目指し、2031年3月期までの電動化・ソフト領域への投資額は累計7兆円、株主還元は2027年3月期から2031年3月期までの5年間で1.6兆円以上を目標に置いています。
さらに、2025年5月のBusiness Briefingでは、四輪について「EV一辺倒」から少し現実的な配分へと軸足を移していることもはっきりしました。ホンダは、2030年時点のグローバルEV販売比率が従来想定の30%を下回る見通しだと説明する一方で、2027年以降に投入する次世代HEVを移行期の中核パワートレインと位置づけています。そのうえで、2030年には自動車販売台数を現在の水準である360万台超へ引き上げ、その中心にHEV220万台を置く方針を示しました。
中期戦略の中心は、やはり二輪
ホンダの成長戦略を考えるうえで、まず最初に見るべきなのは二輪です。2025年3月期の二輪販売台数は2,057万台、世界シェアは約40%、営業利益率は18.3%でした。足元の高収益を支えるだけでなく、将来の投資余力を生む源泉でもあります。
しかも、この二輪事業は「安定事業」であるだけでなく、まだ成長余地も残しています。ホンダは、世界の二輪市場が現在の年5,000万台規模から2030年ごろに6,000万台規模へ拡大すると見ており、特にインドを含むグローバルサウスが需要拡大の中心になると説明しています。これに対応するため、インドのVithalapur工場では2027年に年間65万台分の能力を追加し、インド4工場合計の生産能力を年間約700万台へ引き上げる計画です。
さらに電動二輪でも、ホンダは「将来の準備」だけで終わっていません。
統合報告書とBusiness Briefingでは、インドの電動二輪市場拡大を踏まえ、2028年にインドで電動二輪専用工場を稼働させる計画を示しています。ここではモジュール化などを通じて、従来より効率的な生産体制を作る方針です。
つまり二輪は、足元では高収益のキャッシュカウでありながら、将来の電動化にもつながる成長エンジンでもあるわけです。四輪の不透明感が強い今の局面では、この二輪の厚みが株主にとって非常に大きな安心材料になります。
四輪は「EV一本足」ではなく、HEV中心の現実路線へ
一方で、四輪は今まさに戦略の組み替え局面にあります。
2025年5月のBusiness Briefingの時点で、ホンダはすでにEV市場の減速を踏まえ、2030年のEV販売比率は従来想定の30%を下回ると説明していました。そのうえで、次世代ADASをEVだけでなくHEVにも広く展開し、2027年以降に投入する次世代e:HEVを収益改善の軸に据える方針を示しています。
次世代HEVは燃費を10%以上改善し、2018年投入システム比で50%以上、2023年投入システム比でも30%以上のコスト削減を目指すとされており、ここにホンダの四輪再建の本命があると見てよさそうです。
そして、この流れは2026年3月12日の適時開示でさらに鮮明になりました。
ホンダは北米で生産予定だった3つのEVモデルの開発・市場投入を中止し、米国EV市場の成長鈍化を踏まえて四輪の電動化戦略を見直すと発表しました。
会社は、ハイブリッド車をさらに強化し、日本と米国に加えてインドのモデルラインアップとコスト競争力を高める方針も示しています。つまり、四輪の方向性は「EVをやめる」ではなく、HEVで稼ぐ期間を長く確保しながら、EV投資のタイミングを後ろにずらす形に変わってきています。
この見直しは、株式市場にとってかなり大きな意味を持ちます。なぜなら、2026年3月12日の発表では、2026年3月期の業績予想が大幅に引き下げられ、営業利益は従来の5,500億円黒字から2,700億〜5,700億円の赤字へ、親会社株主に帰属する当期利益も3,000億円黒字から4,200億〜6,900億円の赤字へ修正されたからです。
これは短期的には強い悪材料ですが、見方を変えると、採算が合わないEV案件を早めに止めて固定費を適正化し、HEV中心で立て直す姿勢を示したとも言えます。今後の評価軸は、どこまで損失が一巡するか、HEVでどれだけ利益を回収できるか、5月以降に再構築される中長期戦略の中身がどこまで現実的かの3点になりそうです。
EVとソフトは縮小ではなく「選別投資」
ここで誤解したくないのは、ホンダがEVやソフトを諦めたわけではないことです。
2025年の中長期方針では、2031年3月期までの電動化・ソフト領域への投資を10兆円から7兆円へ減額しましたが、これは全面撤退ではなく、カナダでの包括的EVバリューチェーン構築や専用EV工場のタイミングを見直した結果です。会社はその一方で、ソフト領域への投資は当初計画どおり進めると説明しており、ADASやSDVの価値を将来競争力の源泉と位置づけています。
この点は、ホンダの課題がかなり戦略的な計画を必要とすることを意味しています。
2026年3月の会社説明では、中国では顧客が求める価値が燃費や室内空間といったハード中心から、ソフトウェアで継続的に進化する価値へ移りつつあり、SDVやADASに強い新興EVメーカーとの競争が激しくなっていると明言しています。
つまりホンダは、単にEVの台数競争をしているだけではなく、「どのタイミングで、どの市場に、どの技術を、どれだけの投資で載せるか」を問われているわけです。だからこそ、今回の戦略修正の本質は“後退”というより、投資回収を意識した選別投資への転換と見る方が実態に近いと思います。
株主還元はDOE導入で安定性を強めた
資本政策では、ホンダはかなり分かりやすいメッセージを出しています。2025年5月にDOE(株主資本配当率)を新たな還元指標として導入し、2026年3月期以降はDOE3.0%を目安に、安定的かつ継続的な配当を目指す方針を示しました。
また、2027年3月期から2031年3月期までの5年間で、総額1.6兆円以上の株主還元を目指すとも説明しています。これは、利益が一時的にぶれても極端に配当を落としにくい設計を意識したものです。
その姿勢は、2026年3月12日の大幅下方修正でも確認できました。ホンダはEV戦略見直しに伴う追加費用や損失の可能性を認めつつも、次世代HEVの強化、二輪と金融サービスの稼ぐ力を活用して、安定した株主還元を維持すると説明しています。投資家目線では、これはかなり重要です。短期利益が痛んでも、二輪と金融サービスがキャッシュを生み、四輪HEVで収益回復を狙う構図がある限り、配当政策は崩しにくいからです。
ただし、もちろん無条件に安心というわけでもありません。DOEは「利益」だけでなく「自己資本」にも関係するため、投資負担が重い局面では、将来の資本効率とのバランスがより重要になります。
ホンダ自身も、資本コストを意識した経営を進め、ROIC10%以上を管理目標に置いています。したがって、今後の見どころは「配当が維持されるか」だけでなく、HEVで利益率を戻しながら、EV・ソフト投資と株主還元を両立できるかにあります。
Hondaの強みと弱み|買う前に知るべきポイント
強み
二輪が圧倒的に強く、会社全体の土台になっている
ホンダの最大の強みは、やはり二輪事業です。
世界トップ級の販売台数と高い収益性を持ち、四輪が不安定な局面でも会社全体の稼ぐ力を下支えしています。
しかも、この二輪事業にはまだ成長余地があります。
ホンダは、グローバルサウスを中心に二輪市場が今後も拡大すると見ており、インドでは生産能力の増強や、2028年稼働予定の電動二輪専用工場の計画も進めています。つまり二輪は、単なる一事業ではなく、電動化投資や株主還元を支える土台です。
事業の柱が複数あり、戦略修正もできる
ホンダは「自動車会社」と見られがちですが、実際には二輪・四輪・金融サービスという複数の柱を持っています。
特に金融サービスは、自動車販売を支えるリテールローンやリースを担っており、ものづくりとは異なる収益構造を持っています。こうした事業の分散があることで、四輪が苦しい局面でも会社全体の収益基盤が一気に崩れにくいのは大きな強みです。
もう一つの強みは、環境の変化に応じて戦略を修正できることです。
ホンダは2025年のBusiness Briefingで、2030年に向けた成長の柱として「二輪の継続拡大」「次世代HEVによる四輪収益改善」「電動化・ソフト領域への選別投資」を示しました。また、2031年3月期にROIC10%以上を目指すことや、電動化・ソフト領域への投資を累計7兆円とする方針も明らかにしています。
さらに2026年3月には、北米EV市場の鈍化を踏まえて、一部EVモデルの開発・市場投入を中止し、HEV強化へと軸足を移す見直しも行いました。もちろん短期的には痛みを伴う判断ですが、変化の激しい業界で前提を修正できること自体は、長期で生き残るための重要な力だと考えられます。
弱みと今後の課題
四輪事業は売上の柱だが、利益の振れが大きい
ホンダの弱みとして最も大きいのは、四輪事業の不安定さです。
売上高では四輪が会社全体の中心ですが、利益面では二輪ほどの安定感がありません。2025年3月期の決算でも、四輪は中国やASEANでの販売減少、北米でのEVインセンティブ増加、研究開発費の増加などの影響を受けました。さらに、自動車製品保証の見積りモデル変更も利益の下押し要因になっています。
つまり四輪は、売上規模は大きい一方で、品質費用、販売奨励金、研究開発費、政策変更などの影響を受けやすい事業です。
実際、近年のホンダの業績を見ると、売上が大きく崩れていなくても、保証費用や戦略投資の増減で利益が大きく動く場面がありました。投資家から見ると、この「四輪の収益の読みにくさ」はかなり大きなリスクです。
EV戦略の見直しは合理的だが、不確実性はまだ残る
もう一つの大きな弱みは、四輪の電動化戦略がまだ再構築の途中にあることです。
ホンダは2026年3月12日に、北米で生産予定だった一部EVモデルの開発・市場投入の中止を含む戦略見直しを公表しました。この見直しにより、2026年3月期は損失が発生する見通しとなり、業績予想も大きく修正されています。
この判断自体は、EV市場の鈍化や政策変更を踏まえれば、むしろ現実的な対応とも言えます。
ただ一方で、株式市場が気にするのは「見直した後にどう立て直すのか」です。今後は、HEV強化でどれだけ利益を回復できるか、EVやソフトへの投資をどの規模で続けるのか、そしてその投資が資本効率の改善につながるのかが問われます。
ホンダはROIC10%以上を中長期目標に掲げ、DOEを基準に安定配当も志向していますが、投資・損失・株主還元を同時に成立させるには、四輪の収益改善が欠かせません。
加えて、競争環境そのものも厳しくなっています。
ホンダ自身も、顧客価値がハード中心からソフトウェア中心へ移りつつあることや、地域によってEV需要の伸び方が変わっていることを認めています。これまでの自動車メーカーとしての強みだけでは勝ちにくい場面が増えており、四輪では今後も簡単な戦いにはならないでしょう。
結局ホンダはどう見るべきか?投資判断の個人的結論
ここまで分析してきて、ホンダという企業は一言でいうと「将来性は期待できるが不確実性が高い企業」という感じです。
まず強く印象に残るのは、二輪事業の収益力が会社全体の土台になっている点です。四輪が不安定でもすぐに会社が崩れないのは、この二輪の強さがあるからです。
一方で、四輪事業は完全に転換期にあります。
EV戦略の見直しや赤字見通しはネガティブなニュースとして捉えられがちですが、見方を変えれば「採算の合わない領域を早めに見直した」という点で、むしろ合理的な判断とも言えます。
特に現在のEV市場は、長期的には成長するものの、短期では政策や需要に左右されやすく、想定通りに進まないケースも増えています。その中で、HEVを軸に収益を確保しながら再構築を図るという戦略は、現実的な選択に見えます。
こうした状況を踏まえると、今のホンダは「完成された企業」というより、「次の形に作り替えている途中の企業」です。だからこそ評価が難しく、株価もPBR0.5倍未満という低い水準にとどまっています。市場はすでに四輪の不確実性やEV戦略の遅れを織り込んでいる状態であり、個人的には期待よりも不安が先行している印象です。
今後の注目ポイントとしては、いくつか明確です。
まず、HEVを中心とした四輪の収益改善がどこまで進むのか。次に、EVやソフトウェアへの投資を無理なく継続できるのか。そして、それらを進めながらも株主還元(DOEベースの配当)を維持できるのか。この3点が揃えば、資本効率の改善とともに市場評価が変わってくる可能性があります。
一方で注意すべき点もはっきりしています。
四輪は依然として利益の振れが大きく、保証費用や開発費の増減で業績が大きく動くリスクがあります。また、EVやソフトウェアの競争は想像以上に速く、特に中国市場では競争環境が大きく変わっています。
戦略の見直しが「遅れ」になってしまう可能性もゼロではありません。
さらに、DOEによる安定配当は魅力的ですが、その裏側では自己資本とのバランスも重要になり、投資負担が重くなれば将来的な制約になる可能性もあります。
もし四輪の戦略がHEVを軸に安定し、EVやソフトの投資が無理なく回るようになれば、今の低い評価は見直される可能性があります。逆に、四輪の収益改善が進まなければ、「割安なまま動かない銘柄」にとどまるリスクもあります。
そういう意味でホンダは、変化を前向きに捉えられるなら、十分に面白い銘柄だと思います。個人的には、今後のニュースや四輪の収益改善の進み方を見ながら、買い増しも含めて検討したいと感じています。今後もしっかり追っていきたい銘柄ですね。


なお、投資は自己責任でお願いします。
出典・参考資料
本田技研工業 会社概要(設立、本社、社長、主要製品)
・Honda Philosophy(人間尊重、三つの喜び)
・Honda Report 2025(二輪販売2,057万台、世界シェア約40%、累計生産5億台)
・2025年3月期 通期決算説明資料(セグメント、利益構造、二輪・四輪・金融サービスの状況)
・Honda 2025 Business Briefing(ROIC目標、電動化・ソフト投資7兆円、株主還元1.6兆円超、HEV強化)
・2026年3月12日 Honda適時開示(電動化戦略見直し、EV開発中止、通期赤字見通し)
・Financial Strategy / Honda Report 2025(DOE導入、安定継続配当の考え方)
・OICA Production Statistics(世界自動車生産統計)
・JAMA Motor Industry of Japan 2025(2024年の日本の自動車生産約823万台)
・IEA Global EV Outlook 2025(2024年EV販売1,700万台超、販売シェア2割超)
・トヨタ 2025年3月期 決算資料
・マツダ 2025年3月期 決算説明資料
・スバル 2025年3月期 決算資料
・IRBANK(Honda、トヨタ、マツダ、SUBARUのROE・PBR・PER確認用)

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