今回は、スクリーニングをしている際にPBR1倍割れなのにROEが10%を超えているという点から、愛知電機に目を付けました。
2026年7月28日時点の予想PBRは0.95倍。一方で、2026年3月期のROEは10.2%まで上昇しています。数字だけを見ると、「しっかり利益を出しているのに、まだ評価は低いのでは?」と気になる水準です。
価指標だけなら割安に見えますが、プリント配線板の急成長、回転機の需要調整、設備投資の負担が同時に存在します。低PBRの理由と見直し条件を事業ごとに分けて考える必要があります。
街や工場へ届く電気は、発電所から送られてきたままの電圧では使えません。用途に合う電圧へ変える変圧器、空調や車載機器を動かすモーター、電子機器の信号を支える基板があって、初めて日常の設備が働きます。愛知電機は、この三つを持つ電力と電子部品の複合メーカーです。
この記事では、愛知電機の公式IR、決算短信、有価証券報告書、中期経営計画、IR BANK、競合各社の一次資料を照合し、過去5年の実績、配当、三つの事業、競争上の立ち位置を整理していきます。ではどのような業績なのか、どういう会社なのかを考えながら見ていきます。
会社概要|電力機器・モーター・基板を手がけるメーカー
愛知電機は1942年に設立され、本社を愛知県春日井市に置く電気機器メーカーです。源流は変圧器の製造で、中部地方の電力供給を支える機器を長く手がけてきました。現在も中部電力グループとの取引・資本関係を持ちますが、事業範囲は電力会社向けだけではありません。一般産業、空調、自動車、半導体パッケージへ用途を広げています。
2026年3月期の連結売上高は1,293.82億円、2026年3月末の連結従業員数は2,833名です。事業は電力機器、回転機、プリント配線板の三つに分かれます。変圧器からモーター、基板までを一社で扱うため、設備投資の異なる需要を組み合わせる分散された事業構成が特徴です。
電力機器では、電圧を変える変圧器、電力系統や工場設備を制御する装置、再生可能エネルギー関連機器を製造します。回転機では建物空調用、車載空調用のモーターや応用製品を扱い、プリント配線板では半導体パッケージ基板の土台となるコア基板や一般基板を生産します。社会インフラと民間の量産需要を同時に持つ会社です。
経営の基本方針は「積極経営」「技術錬磨」「人間尊重」です。長期の電力インフラ取引には品質と納期の信頼が欠かせず、モーターや基板では顧客製品の変化へ追随する開発力が求められます。会社概要として重要なのは、特定の成長テーマだけを追う企業ではなく、既存設備を守りながら新用途を育てる製造業だという点です。
過去5年の業績推移|利益と資本効率の改善を確認
対象年度は2022年3月期から2026年3月期までで、古い年度から新しい年度の順に並べた連結実績です。金額は百万円を億円へ換算した日本基準の数値です。自己資本比率とROEは各対象期の実績、PBR・PERはIR BANKで各期末取引日、休日の場合は最終取引日に対応する値を確認しました。基準日は2022年・2023年・2025年・2026年が3月31日、2024年が3月29日です。
5年間で売上高は943.81億円から1,293.82億円へ37.1%増え、営業利益は66.67億円から111.53億円へ67.3%増えました。自己資本比率は2023年3月期から改善し、2026年3月期のROEは10.2%です。売上以上の速度で利益が伸びた5年間と整理できます。
2022年3月期は売上高943.81億円、営業利益66.67億円でした。電力機器の安定需要を土台にしつつ、半導体関連需要が業績を支えました。期末PBR0.42倍、PER4.66倍はかなり低い水準ですが、これは当時の株価と実績に対応する値です。現在の予想PBRと比べるときは、利益水準と評価時点の違いをそろえる必要があります。
2023年3月期は売上高が1,142.86億円へ大きく増え、営業利益も75.04億円となりました。部材価格や為替の影響を受けながら、製品価格の改定と需要増を取り込みました。一方、自己資本比率は54.4%へ低下しています。売上拡大に伴って在庫や売掛金、設備が増える局面では、利益だけでなく運転資本の膨張にも注意が必要です。
2024年3月期は売上高1,105.95億円、営業利益70.59億円といったん減少しました。半導体関連や中国の空調需要など、民間設備の調整が表れた年度です。それでも自己資本比率54.4%、ROE8.5%を保ち、赤字や急激な財務悪化には至っていません。三事業の分散は、景気変動を消すのではなく和らげる役割を果たします。
2025年3月期は売上高1,202.70億円、営業利益86.65億円へ回復しました。プリント配線板の需要が持ち直し、電力機器も一般産業向けを中心に伸びました。自己資本比率は55.9%へ改善しています。ただし期末PBRは0.51倍にとどまり、市場は単年の回復より、半導体関連利益の継続性を慎重に見ていたと考えられます。
2026年3月期は売上高1,293.82億円、営業利益111.53億円、経常利益119.25億円で過去最高です。営業利益率は8.62%となり、2025年3月期の7.20%から改善しました。プリント配線板が利益を押し上げた一方、回転機は減収減益です。全社好調の中にも事業間の温度差がはっきりあります。
配当推移と株主優待|増配と継続保有条件を見る
配当は各年度の1株当たり年間実績、配当性向は親会社株主に帰属する当期純利益に対応する実績です。会社は安定的な利益還元を基本とし、2026年3月期からは中期経営計画で配当性向30%以上を目安に掲げています。設備投資の大きい製造業なので、配当額だけでなく利益と営業キャッシュ・フローを合わせて見ます。
年間配当は150円から280円へ増え、2025年3月期と2026年3月期に増配幅が大きくなりました。配当性向は25%台から30.9%へ上がり、中期計画の目安に沿っています。利益成長を還元へ移す方針の変化が配当推移に表れました。
2027年3月期の年間配当予想は280円で、前期と同額です。予想純利益は70億円と前期比17.9%減を見込むため、配当を維持すれば配当性向は上がります。増配の勢いだけを見るのではなく、設備投資と研究開発を続けながら280円を維持できるか、現金創出力とのバランスを確認したいところです。
株主優待
株主優待は、毎年3月31日時点で100株以上を1年以上継続保有した株主が対象で、3,000円相当のカタログギフトです。1年以上とは、3月末と9月末の株主名簿に同一株主番号で100株以上の保有記録が3回以上連続していることを指します。貸株や全株売却、証券会社の変更などで株主番号が変わる可能性があるため、金額より継続保有条件の確認が重要です。
決算内容とリスク|最高益の中身を事業別に読む
決算で良かった点
2026年3月期は売上高が7.6%増、営業利益が28.7%増、経常利益が27.9%増、親会社純利益が27.6%増でした。売上より利益の伸びが大きく、営業利益率も改善しています。電力機器の利益増とプリント配線板の高成長が重なり、過去最高の売上と各利益を更新しました。
プリント配線板は売上高342.82億円で36.1%増、セグメント利益57.35億円で40.1%増でした。半導体パッケージ基板用コアの需要が強く、柴田新工場の立ち上がりも寄与しています。数量増だけでなく生産能力を追加したことで、需要を取り逃さない体制へ進みました。今後は新工場の稼働率と歩留まりが利益を左右します。
電力機器は売上高380.32億円で0.7%増にとどまりましたが、セグメント利益は57.50億円で28.3%増えました。一般産業向け中形変圧器が堅調で、製品構成や価格改定、生産効率が利益へ表れたと見られます。インフラ需要の安定性と採算改善を両立した点は、基板事業とは異なる強さです。
決算で気になった点
回転機は売上高571.96億円で0.5%減、セグメント利益21.01億円で3.0%減でした。中国の建物空調用モーターと世界の車載空調用モーターが需要調整の影響を受けています。売上規模は三事業で最大ですが利益率は相対的に低く、全社の収益性を上げるには回転機の立て直しが欠かせません。
2027年3月期は売上高1,380億円と6.7%増を予想する一方、営業利益101億円は9.4%減、経常利益104億円は12.8%減、純利益70億円は17.9%減の計画です。増収減益は、原材料、人件費、減価償却、新工場の立ち上げ負担を慎重に見ている可能性があります。売上の成長が利益へつながらない計画は注意点です。
有価証券報告書やキャッシュ・フローで見たい点
2026年3月期の営業キャッシュ・フローは118.57億円、投資キャッシュ・フローはマイナス95.75億円でした。設備投資83.84億円に対して営業キャッシュ・フローが上回っていますが、余裕は大きくありません。現金及び現金同等物は244.01億円で、自己資本比率は59.6%です。投資を自己資金で回せる財務は維持されています。
リスクとして、主要顧客の設備投資、半導体市況、中国の空調需要、自動車生産、原材料価格、為替、品質保証が挙げられます。変圧器は長期使用されるため品質問題の影響が大きく、基板とモーターは量産顧客の生産計画に左右されます。三事業の分散があっても、顧客側の投資周期を完全には避けられない点を押さえます。
事業内容|三つの製造基盤で需要を分散
電力機器
電力機器は、発電・送配電・受電の場面で電圧を変える変圧器、系統を監視・制御する装置、再生可能エネルギー関連機器を扱います。電力会社向けで培った信頼性を一般産業向けへ広げ、工場、ビル、データセンターなどの受変電需要へ対応します。長い製品寿命と更新需要を持つ社会インフラ型の事業です。
変圧器は一度納入すると長く使われますが、老朽化すれば計画的な更新が必要です。再生可能エネルギーやデータセンターの増加は新設需要を生み、電力需要の変化は系統制御の高度化を促します。一方で、案件ごとの仕様、銅などの材料価格、生産リードタイムが採算を左右します。受注残だけでなく納期と価格転嫁を見ます。
回転機
回転機は、建物空調や車載空調のファンを動かすモーター、ポンプなどの応用製品を扱います。モーターは最終製品の内部に組み込まれるため一般の利用者から見えにくいものの、省エネ性能、静音性、小型化、耐久性が空調や自動車の品質へ直結します。顧客設計へ合わせ込む量産部品メーカーとしての開発力が必要です。
長期的には省エネ空調や車両電動化が追い風ですが、短期の数量は住宅・建設市場、自動車販売、顧客在庫に左右されます。特に中国市場は価格競争と需要変動が大きく、売上が伸びても利益が残らない可能性があります。回復を判断するときは、台数だけでなく高効率製品の比率と採算を追う必要があります。
プリント配線板
プリント配線板は、半導体パッケージ基板用コアと一般基板を生産します。コア基板は半導体チップと外部回路をつなぐパッケージの土台で、高密度化や微細化に対応する品質が求められます。AI、データセンター、自動車、通信機器で半導体の性能が上がるほど、高機能な実装基盤の重要性が増します。
2026年3月期は成長をけん引しましたが、半導体関連は需要の波が大きい事業です。顧客の設備投資や在庫調整で数量が急に変わり、新工場の固定費が残ることもあります。また高い歩留まりを安定させるまで時間がかかります。強い需要が続く前提にせず、受注・稼働率・利益率の三点を確認します。
業界の将来性|電力更新と電子化の追い風を考える
業界環境
国内の電力設備では、高度成長期以降に整備された機器の更新、災害への備え、再生可能エネルギー接続、データセンターや工場の電力需要が重なります。変圧器は注文から納入まで時間がかかり、熟練人材や材料、生産設備に制約があります。需要の存在だけでなく、供給能力と採算を両立できるメーカーが有利になります。
モーター市場は、省エネ規制、ヒートポンプ空調、車両の電動化が長期テーマです。ただし中国の不動産・建設、自動車の販売競争、EV普及速度の変化で短期需要は揺れます。顧客ごとの仕様へ深く組み込まれることは継続受注の強みになる一方、特定顧客の生産調整を受けやすいという表裏一体の構造です。
業界の将来性
電力消費の脱炭素化では、再生可能エネルギーを増やすだけでなく、送配電網、変圧器、監視制御、蓄電をまとめて更新する必要があります。AI向けデータセンターや半導体工場の新設も受変電設備の需要につながります。電力機器は成長率が派手でなくても長期の設備更新テーマを持ちます。
電子部品では、生成AI向けサーバー、高性能計算、自動車の電子化が半導体パッケージの高密度化を促します。コア基板の技術要求が上がれば、品質認定を得たメーカーには機会があります。しかし半導体市場は投資過熱と在庫調整を繰り返すため、設備を増やした後の需要後退が最大のリスクです。成長市場でも直線的には伸びないと考えます。
その中での立ち位置
愛知電機の特徴は、電力機器だけに集中せず、回転機とプリント配線板を持つことです。電力設備の更新が安定性をつくり、基板が成長を担い、回転機が量産規模を支えます。反対に、回転機と基板が同時に調整へ入れば電力機器だけでは補い切れません。異なる周期を束ねる運営力が企業価値を決めます。
2026年3月期は基板と電力機器が好調で、事業分散が良い方向に働きました。次の段階は、回転機の収益性を戻しながら、新工場の稼働と電力機器の受注を利益へ変えることです。中部電力グループとの関係は安定した顧客基盤ですが、一般産業や海外、電子部品で稼ぐ力を伸ばすほど、単一顧客・地域への依存を下げられます。
競合比較|電力機器の重なりと事業構成の違い
比較対象は、変圧器・受変電設備・電力制御で競合する東光高岳とダイヘン、電力インフラと産業用電機の両方を持つ明電舎です。数値は2026年3月期の連結実績、営業利益増減率は前期比です。PBR・PERはIR BANKで2026年3月31日の期末実績値、ROEは各社の対象期実績を用いました。事業範囲が異なるため、規模と指標は参考比較です。
企業紹介
・愛知電機
中部地方を基盤に、変圧器・制御装置などの電力機器、空調・車載向けモーター、半導体パッケージ向けを含むプリント配線板を展開します。インフラの更新需要と量産部品の成長性を一社に持ち、三事業の技術・顧客周期を組み合わせて収益をつくるメーカーです。
・東光高岳
発電所・変電所から工場・家庭までの電力流通を支え、電力プラント、変圧器・開閉器などの電力機器、計量、GXソリューション、光応用検査機器を展開します。電力会社向けの系統運用ノウハウと幅広い設備群を持ち、愛知電機とは変圧器や監視制御で重なります。
・ダイヘン
柱上変圧器を源流に、エネルギーマネジメント、ファクトリーオートメーション、マテリアルプロセシングの三領域を展開します。受変電機器、再エネ・蓄電、EV充電に加え、産業用ロボットや半導体製造装置向け高周波電源も持ち、電力と工場自動化を横断します。
・明電舎
電力、鉄道、水処理などの社会インフラと、モーター、インバーター、試験装置などの産業システムを幅広く提供します。機器単体だけでなくシステム、工事、保守まで扱う総合力が特徴で、愛知電機とは電力設備と回転機の双方で比較しやすい総合電機企業です。
比較
愛知電機の売上規模は東光高岳を上回りますが、ダイヘンと明電舎より小さい水準です。営業利益率は8.62%で、東光高岳の8.71%と近く、ダイヘンの7.90%、明電舎の8.31%を上回ります。2026年3月期の収益性だけなら見劣りしません。それでも期末PBRは4社で最も低く、持続性への慎重な評価が残ります。
明電舎はROE15.1%で最も高く、PBRも2倍を超えます。東光高岳は営業利益が60.2%増え、評価が上がりました。ダイヘンは電力機器にFAや半導体装置向け電源を組み合わせ、成長分野の広がりが大きい会社です。愛知電機が評価差を縮めるには、基板の成長と回転機の改善を同時に継続する必要があります。
一方、愛知電機は電力機器とプリント配線板で高い利益を得ながら、自己資本比率59.6%を保っています。競合より低い評価は機会にも見えますが、回転機の低採算、半導体市況、新工場投資を考えれば理由のない割安とは言えません。比較表は買い判断ではなく、市場が何を割り引いているかを探す入口として使います。
中期経営計画と成長戦略|2028年度目標への進捗
中期経営計画
公式資料「中期経営計画2028」は2024年度から2028年度までの5年間を対象とし、新製品・新規事業、ものづくり、経営基盤を重点に置いています。目標年度は2028年度で、事業拡大だけでなく資本効率と株主還元を同時に示しています。
- 売上高1,500億円、営業利益100億円
- ROIC 6%以上、ROEの目安8%
- 配当性向30%以上
- セグメント売上高は電力機器400億円、回転機730億円、プリント配線板370億円
2026年3月期の売上高1,293.82億円は目標の86.3%です。セグメント別では電力機器380.32億円が目標の95.1%、プリント配線板342.82億円が92.7%まで進む一方、回転機571.96億円は78.4%です。営業利益111.53億円とROE10.2%は最終目標・目安をすでに上回りました。利益目標の先行達成を一時的な好況で終わらせないことが課題です。
計画では三事業合計で新製品・新規事業売上を伸ばし、電力機器57億円、回転機82億円、プリント配線板80億円を目指します。既存品の数量増だけに頼らず、次世代監視制御、環境配慮型変圧器、高効率モーター、高機能・多層の基板へ製品構成を変える考えです。売上の中身を高付加価値へ移す計画と読めます。
成長戦略
電力機器では、スマートファクトリー化で変圧器の生産能力と品質を高め、デジタル監視・制御、植物油を使う変圧器、再生可能エネルギー向け設備を広げます。受注が増えても納期が長期化すれば機会を逃すため、設備投資と工程改善をセットで進めることが重要です。需要の追い風を供給能力へ変える投資が中心になります。
回転機では、空調用・車載用モーターの高効率化、小型化、静音化を進め、既存顧客以外の用途も開拓します。現状は中国建物空調と車載空調の調整が重いため、売上目標730億円へ近づくには市況回復だけでなく製品構成の改善が必要です。量を追うより、採算の良い高効率製品へ切り替わるかを見ます。
プリント配線板では、半導体パッケージの高機能化・多層化へ対応し、柴田新工場を安定稼働させます。2026年3月期の伸びで目標へ近づきましたが、能力増強後は減価償却と固定費が先に出ます。顧客認定、量産歩留まり、製品ミックスを改善し、需要変動時にも利益を守れるかが、基板事業を一時的な牽引役から柱へ変える条件です。
経営基盤では、ものづくり人材、DX、品質保証、サプライチェーン、資本効率を強化します。2026年3月期にROIC・ROEの目標水準を超えても、大型投資後に利益が下がれば指標は悪化します。配当性向30%以上と成長投資を両立するには、営業キャッシュ・フローを増やし、投資案件ごとの回収を管理する力が欠かせません。
強みと弱み|複合事業の効果と難しさ
強み
電力インフラで積み上げた品質と顧客基盤
変圧器や制御装置は長期間使われ、故障が停電や設備停止につながるため、価格だけで供給先を変えにくい製品です。愛知電機は中部地方の電力供給を支えてきた実績を持ち、一般産業向けにも技術を展開しています。長年の品質・納入実績は新規参入が短期間で再現しにくく、更新需要を継続受注へつなげる土台になります。顧客設備の仕様や保守履歴を理解していることも、更新提案や周辺機器の追加受注で有利に働きます。
三事業で異なる需要周期を組み合わせる構造
電力機器は長期の設備更新、回転機は空調・自動車の量産、プリント配線板は半導体投資と、それぞれ需要を動かす要因が異なります。2026年3月期は回転機の弱さを電力機器と基板が補いました。一つの市場だけに依存する企業より変動を和らげやすく、安定事業で投資余力を保ちながら成長分野を育てる組み合わせが可能です。研究・生産の知見を共有できれば、電力変換や省エネといった共通テーマで新製品を生む余地もあります。
財務を保ちながら大型投資を進める力
2026年3月期は設備投資83.84億円を行いながら、営業キャッシュ・フロー118.57億円、自己資本比率59.6%を確保しました。現金及び現金同等物も244.01億円あります。新工場や変圧器の生産能力増強には継続投資が必要ですが、現時点では過度な借入依存ではありません。財務の耐久力を残した成長投資は下振れ時の選択肢を広げます。需要が一時的に弱くなっても、研究開発や人材育成を急に止めず、次の回復局面へ備えやすい財務状態です。
弱み
最大事業の回転機で利益率が低い
回転機は三事業で最も大きな売上を持ちますが、2026年3月期のセグメント利益は21.01億円にとどまり、電力機器やプリント配線板より採算が低い状態です。中国空調や車載市場の数量・価格競争を受けやすく、売上回復だけでは全社利益を押し上げられません。最大事業の低収益性がROEと評価の上限になり得ます。顧客別・用途別の採算は外部から見えにくいため、売上増と利益増の差から改善度を丁寧に読む必要があります。
プリント配線板の市況変動と新工場負担
プリント配線板は2026年3月期の成長源ですが、半導体の在庫循環と顧客投資に左右されます。需要が強いと設備能力が利益へ直結する一方、調整局面では減価償却、保守、人員などの固定費が残ります。柴田新工場の量産が計画どおりでも、市場価格や製品構成で採算は変わります。成長速度が速いほど反動も大きい点を忘れないようにします。特定のパッケージ世代や顧客仕様が変われば、追加投資や再認定が必要になり、能力がすぐ売上へ結びつかないこともあります。
複数事業を同時に変える経営負荷
電力機器のスマート工場、回転機の高効率製品、基板の高機能化を同時に進めるには、設備、人材、研究開発、品質保証へ広く資金を配る必要があります。三事業の分散は安定性になる一方、経営資源が薄く広がる危険もあります。計画の目標を個別に追うだけでなく、投資優先順位と撤退判断が明確かを確認する必要があります。各事業の投資回収期間が異なるため、好調部門へ資金を偏らせすぎず、将来の基盤技術も維持する難しい配分が続きます。
株価シナリオ|回転機と基板の利益が分岐点
上昇シナリオ
電力機器の更新・データセンター需要が続き、変圧器の生産能力増強が売上と利益へつながる場合です。プリント配線板は新工場の稼働率と歩留まりが上がり、回転機も中国空調・車載の調整から回復します。営業利益100億円超、ROE10%前後を数期維持できれば、PBR1倍割れの慎重評価が見直される余地があります。
この場合、売上高1,500億円の達成だけでなく、三事業すべてで利益が残り、営業キャッシュ・フローが設備投資と配当を賄います。特に回転機の利益率改善は、基板市況に頼らない評価へつながります。確認材料は、受注残、新工場稼働率、回転機のセグメント利益、ROIC、配当性向30%以上を支える現金です。
中立シナリオ
電力機器は堅調、プリント配線板は高水準ながら伸びが鈍化し、回転機の回復には時間がかかる場合です。売上は計画へ近づいても、減価償却、人件費、材料費で営業利益は100億円前後にとどまります。配当と財務は安定しても、ROE改善の次の一手が見えず、PBRは1倍近辺で推移しやすくなります。
中立では、2027年3月期の増収減益計画がほぼ想定どおり進みます。減益が投資先行による一時的なものか、価格競争や製品構成による構造的なものかを分けることが重要です。四半期ごとの利益率だけで判断せず、量産認定や稼働改善の進捗、2028年度に向けた利益回復の根拠を確認します。
下落シナリオ
半導体パッケージ需要が調整し、新工場の固定費が重くなる一方、回転機の需要低迷と価格競争が続く場合です。電力機器も材料高や長納期で採算が悪化すると、三事業の補完が働きません。営業キャッシュ・フローが設備投資を下回り、配当維持で現金が減れば、低PBRが安全余地ではなく業績懸念を表す可能性があります。
品質問題、主要顧客の生産計画変更、投資回収の遅れにも注意します。高い利益を基準に能力を増やした後の需要後退は、利益率とROEを同時に押し下げます。下落局面では株価だけで割安と判断せず、在庫、減損、営業キャッシュ・フロー、受注の採算、会社予想の下方修正有無を優先して確認します。
全体まとめ|三つの事業を持続的なROEへ結びつけられるか
愛知電機を調べて見えたのは、変圧器メーカーという一言では捉えきれない事業構造です。電力機器で社会インフラを支え、回転機で空調・自動車の量産に入り、プリント配線板で半導体の高機能化を取り込みます。安定・規模・成長を異なる事業で担う会社です。
過去5年では、売上高が943.81億円から1,293.82億円、営業利益が66.67億円から111.53億円へ伸びました。2026年3月期はROE10.2%、自己資本比率59.6%で、単に売上規模を大きくしただけではありません。設備投資を進めながら、利益と財務の両方を改善した点は評価できます。
ただし、最高益の中身は均一ではありません。プリント配線板と電力機器が伸びる一方、最大売上の回転機は減収減益でした。2027年3月期は増収でも営業減益を予想します。ここから重要なのは最高益を更新するかどうかより、基板の利益を維持し、回転機を立て直せるかです。
中期経営計画2028では、営業利益100億円とROE8%の目安を2026年3月期に先行して超えました。
一方、売上高1,500億円、回転機730億円は残っています。目標達成の見方も、売上を積み上げるだけでなく、ROIC6%以上を保ち、大型投資後も資本効率を落とさないことへ焦点を移すべきです。
2026年7月28日時点の予想PBR0.95倍、予想PER11.81倍、予想配当利回り3.18%は入口として魅力があります。ただし競合より評価が低い背景には、回転機の採算、基板市況、新工場負担があります。低PBRそのものより、ROE10%前後の持続性が見直しの条件です。
次の決算では、電力機器の受注と利益率、回転機の売上・セグメント利益、プリント配線板の稼働率と利益、営業キャッシュ・フローを追います。配当280円と株主優待も魅力ですが、還元の原資が本業から増えているかが大切です。三つの事業が互いを補い、利益・現金・資本効率を一緒に伸ばせるかを数期かけて確認したい会社です。
最新決算|2026年3月期通期
決算ハイライト
2026年4月30日発表の通期決算は、プリント配線板と電力機器が伸び、売上高・各利益とも過去最高でした。売上高7.6%増に対して営業利益は28.7%増となり、利益率が改善しています。
通期予想と進捗
2027年3月期は売上高1,380億円を予想する一方、営業利益101億円、経常利益104億円、純利益70億円と減益計画です。増収分を原材料、人件費、減価償却などが上回る前提であり、第1四半期以降は売上進捗より利益率を優先して見ます。
配当・株主還元
2026年3月期の年間配当は280円、配当性向は30.9%でした。2027年3月期も280円を予想しています。純利益が減る計画の中で配当を維持するため、営業キャッシュ・フローが設備投資と還元を賄えるかを確認します。株主優待は100株以上を1年以上継続保有が条件です。
業績背景
電力機器は一般産業向け中形変圧器が堅調で、プリント配線板は半導体パッケージ基板用コアの需要と柴田新工場が寄与しました。回転機は中国の建物空調用と世界の車載空調用の需要調整を受けています。好調分野と調整分野が明確な決算です。
セグメント別動向
電力機器は売上高380.32億円・利益57.50億円、回転機は571.96億円・21.01億円、プリント配線板は342.82億円・57.35億円でした。基板は売上36.1%増・利益40.1%増、回転機は売上0.5%減・利益3.0%減で、収益貢献の差が広がりました。
決算まとめ
最新決算は最高益と次期減益予想が同居しています。基板の高成長を持続し、回転機を回復させ、投資負担を吸収できるかが次の焦点です。
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この記事は、企業について調べた内容をまとめたものであり、特定の銘柄の売買をすすめるものではありません。株式投資には価格変動や業績悪化などのリスクがあります。最終的な投資判断は、ご自身でも最新情報を確認したうえでお願いします。

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