世の中では、自民党総裁が高市氏になり、金融緩和路線が主ルートとして考えるニュースなどもよく目にします。しかし、昨今続くインフレなどを考えると日銀政策は、金利上昇傾向にあるような気もします。一概に金融緩和路線ばかり見ているのも良くないかと思い、今回は地銀株を調べる事にしました。
以前、今後の金利上昇局面でという記事で宮崎太陽銀行について調べて触れましたが、この際に競合比較として調べた地銀株の一つが南日本銀行でした。
南日本銀行は鹿児島県鹿児島市に本店を置く第二地方銀行です。今回、目を付けたのは非常に低PBRの第二地銀の中で比較するとROEが高く、稼ぐ力があるように見える点、社債保有比率が少なく、金利上昇の恩恵を受けられる点があると思ったので、改めて調べて共有していこうと思いました。では調べていきます。
会社概要:南日本銀行の立ち位置と地域ネットワーク
南日本銀行は鹿児島県を中心に地域密着型の金融サービスを展開する地方銀行であり、県内では融資シェア約1割強を占めます。また、県内第一地銀の鹿児島銀行に次ぐ第二地銀です。
本店を鹿児島市に置き、県内各地のほか、熊本・宮崎・福岡・東京にも支店を展開。預金・貸出金はいずれも7,000〜8,000億円規模、総資産は約8,300億円と堅実な経営基盤を持ちます。
融資の約9割を中小企業向けとし、地元企業支援に重点を置くのが特徴です。公式サイトを見るとコーポレートメッセージ(経営理念)は「話せるところ 頼れるところ」とあり、地域とともに歩み、地域経済の発展に貢献する姿勢を打ち出しています。
過去5年間の連結財務指標の推移
(2021年3月期~2025年3月期)で作成しています。経常収益」「経常利益」は主に決算短信(連結)の数値を採用しています。単位は億円、%、倍で統一しています。
| 決算期 | 経常収益 (億円) | 経常利益 (億円) | 自己資本比率(%) | ROE(%) | PBR(倍) | PER(倍) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2021年3月期 | 159.7 | 17.7 | 8.6 | 3.95 | 0.14 | 3.49 |
| 2022年3月期 | 155.0 | 28.9 | 8.4 | 4.20 | 0.10 | 2.34 |
| 2023年3月期 | 146.5 | 18.8 | 8.0 | 4.05 | 0.14 | 3.37 |
| 2024年3月期 | 141.4 | 19.9 | 8.26 | 3.89 | 0.18 | 4.64 |
| 2025年3月期 | 161.8 | 27.1 | 9.50 | 5.37 | 0.16 | 2.95 |
南日本銀行 決算分析(2021〜2025年)
2025年3月期は金利上昇を背景に貸出金利回りが改善し、経常収益は161.8億円(前期比+14%)と増加しています。経常利益も27.1億円(同+36%)へ拡大し、収益力が明確に回復しました。ROEは5.37%、自己資本比率も9.50%へ上昇し、地方銀行として収益性・健全性の両面で改善が進んでいます。
過去5年を振り返ると、経常収益は2023年まで減少が続きましたが、2024年を底に反転。利益も変動を経ながら回復し、コロナ前の水準を上回りました。ROEは3〜5%台で安定上昇しており、資本効率の改善が見て取れます。
収益ドライバーを分解すると、
- 金利上昇による利鞘の拡大(貸出金利上昇>預金金利上昇)
- 与信費用の安定化とリスク管理の徹底
- 有価証券再投資利回りの向上
などが主因であり、地域融資の質と安定収益構造の両立が進んでいます。
財務面では、内部留保の積み上げとリスク資産圧縮により自己資本比率が上昇。高い利益率を維持しつつ、健全性と効率性のバランスが取れた内容となりました。バリュエーション面ではPBR0.16倍、PER2.95倍(2025/10/17PBR0.21倍、PER4.25倍)と依然として割安圏にあり、ROE5〜6%台の定着が確認されれば、市場からの再評価余地が大きいとみることもできます。
競合比較(ROE・PBR・PER):同規模地銀との相対評価
九州の地銀や第二地銀、低PBRの地銀をまとめて比較していきます。比率は単体ベース(2025/3)
*自己資本規制比率(国内基準・連結)を表記/(会計上の)自己資本比率ではない
| 行名 | 経常収益 (億円) | 経常利益 (億円) | 自己資本比率(%) | ROE(%) | PBR(倍) | PER(倍) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 南日本銀行 | 161.8 | 27.1 | 9.50 | 5.37 | 0.17 | 2.95 |
| 鳥取銀行 | 163.2 | 19.0 | 8.60 | 2.71 | 0.26 | 9.06 |
| 筑邦銀行 | 192.0 | 11.5 | 9.15 | 3.10 | 0.26 | 8.49 |
| 東邦銀行 | 704.4 | 112.0 | 10.75 | 3.71 | 0.52 | 11.9 |
| 高知銀行 | 234.8 | 12.2 | 8.82 | 1.70 | 0.18 | 0.94 |
| 宮崎太陽銀行 | 148.6 | 18.9 | 8.23 | 3.08 | 0.16 | 5.16 |
| 宮崎銀行 | 801.9 | 139.5 | — | 5.16 | 0.37 | 5.77 |
| 豊和銀行 | 103.8 | 13.4 | 10.67 | 3.04 | 0.09 | 2.81 |
南日本銀行は、経常収益161.8億円、経常利益27.1億円、ROE5.37%、自己資本比率9.50%と、地方銀行の中では収益力と健全性の両立が進む堅実な内容となっています。金利上昇局面を追い風に貸出金利回りが改善し、利益面でも確実に成果を上げています。
比較すると、同規模の地方銀行である鳥取銀行(ROE2.71%、PBR0.26倍)や筑邦銀行(3.10%、0.26倍)よりも、南日本銀行のROE・PBRの水準は上回っており、効率面で優位といえます。一方で、東邦銀行(ROE3.71%、PBR0.52倍)や宮崎銀行(ROE5.16%、PBR0.37倍)など、規模の大きい銀行との比較ではまだ評価余地が残されています。
収益ドライバーを見ると、
- 貸出金利上昇による利鞘改善
- 中小企業向け融資比率の高さ(約9割)
- 信用コストの安定化とリスク管理強化
といった点が収益向上の要因です。地元企業支援に重点を置いた運営姿勢が、堅実な利益成長につながっています。
また、自己資本比率9.50%は比較的高水準であり、財務の安定性も際立っています。PBR0.17倍、PER2.95倍と依然として株価は割安圏にあり、ROE5%台の持続が確認されれば再評価の可能性があります。南日本銀行は、地銀再編の波の中でも独自性と地域密着型の経営を磨くことで、今後の株価見直しが期待できる堅実な地銀といえます。
ただし今後の課題としては、どの地銀にも言えることですが、金利上昇局面の反転による利鞘縮小リスクや、地域中小企業の業績悪化に伴う与信費用の増加、有価証券評価損の拡大などが挙げられます。こうしたリスクをいかに抑え、安定した収益構造を維持できるかが、今後の持続的成長の鍵となります。
金利感応度分析:社債/証券・社債/総資産からみる“守り”の度合い
銀行別 社債・証券・総資産比較(2025年3月期・単体ベース)
| 銀行名 | 社債残高(億円) | 証券合計 (有価証券) | 総資産 | 社債/証券比率 (%) | 社債/総資産比率(%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 南日本銀行 | 120 | 899億円 | 8,301億円 | 13.3 | 1.4 |
| 鳥取銀行 | 2,327 | 1兆1,058億円 | 11兆647億円 | 21.0 | 2.1 |
| 筑邦銀行 | 554 | 2,149億円 | 8,739億円 | 25.8 | 6.3 |
| 東邦銀行 | 1,579 | 1兆2,076億円 | 6兆6,532億円 | 13.1 | 2.4 |
| 高知銀行 | 1,166 | 2,836億円 | 1兆1,535億円 | 41.1 | 10.1 |
| 宮崎太陽銀行 | 650 | 1,617億円 | 8,112億円 | 40.2 | 8.0 |
| 宮崎銀行 | 578 | 7,768億円 | 4兆718億円 | 7.4 | 1.4 |
| 豊和銀行 | 324 | 1,108億円 | 5,995億円 | 29.2 | 5.4 |
社債/証券比率(2025年3月期)
社債/総資産比率(2025年3月期)
南日本銀行の金利感応度分析
金利が上がると債券価格は下がります。銀行の影響を見る簡単なコツは、①総資産に対する有価証券の大きさと、②その中で社債がどれだけ占めるかの2点です。社債は金利だけでなく信用スプレッドにも反応するため、国債や地方債を中心にするよりも価格のブレが出やすくなります。
南日本銀行は、2025年3月期における総資産8,301億円のうち、有価証券が約899億円(総資産比10.8%)を占めています。その中で社債残高は120億円(有価証券の13.3%)と、地銀の中では比較的保守的な運用構成といえます。
金利上昇局面では、保有する債券の評価額が下落しやすく、含み損の拡大が収益や自己資本に影響するリスクがあります。その感応度を把握するうえで注目すべきなのが「社債/証券比率」と「社債/総資産比率」です。南日本銀行はこの比率がそれぞれ13.3%・1.4%と低く、債券運用リスクの水準は地銀の中でも抑制されています。
この保守的な運用構成には、以下のような特徴があります。
- 国債・地方債中心の安定運用が主軸で、金利上昇時の評価損を一定程度抑制できる
- 社債比率が低く、信用スプレッド拡大の影響を受けにくい
- 有価証券依存度が約1割と限定的で、運用リスクが過度に高くない
一方で、金利上昇が長期化した場合には、保有債券の評価損や含み損益の変動が自己資本比率(9.5%)に影響を及ぼす可能性もあります。高知銀行(社債比率41.1%)や宮崎太陽銀行(40.2%)と比較すると、南日本銀行はリスク耐性の高いポジションにありますが、再投資のタイミングでどこまで利回り改善を収益に反映できるかが今後の課題です。
総じて、南日本銀行は「守りの債券運用」を維持しつつ、金利上昇を追い風に安定的な利息収益を積み上げる構造にあります。金利感応度は地銀の中でも中程度〜低位に位置づけられ、過度な評価損リスクを抱えにくい点が強みです。もっとも、保守的運用は安定性と引き換えに収益機会を制限する側面もあり、上昇した金利環境をどの程度収益拡大に結びつけられるかが次の焦点となります。
今後注目したいポイントは以下の通りです。
- 再投資による利回り改善がどこまで進むか
- 貸出金利の引き上げで利鞘をどこまで拡大できるか
- 評価損リスクを抑えつつ収益性を高めるバランス運営が可能か
つまり、南日本銀行は「守りの金融機関」としての堅実さを保ちながらも、今後は再投資や貸出金利の引き上げによって利鞘を安定的に拡大できるかが持続的成長の鍵です。金利上昇が追い風となるこの局面を、どこまで積極的な収益化に転換できるかが、中長期での市場評価を左右するポイントとなるでしょう。
中期経営計画の要点(2023–2026):重点戦略5本柱
南日本銀行(なんぎん)は、2023年4月~2026年3月を期間とする「第1次中期経営計画『インテグリティある組織への変革』」を進めています。創業110周年を機に、「持続可能なビジネスモデルの土台づくり」「大胆な構造改革」「自発的に考えて行動できる人材の増強」を基本方針として掲げ、地域密着型の中小企業支援を軸にした成長モデルへの転換を目指しています。
計画の中核をなす重点戦略は次の5項目です。
- 中小規模事業者に特化した金融モデルの構築
- 経営戦略と人材戦略を融合した人的資本経営の実現
- 人事・育成・評価制度の見直しによる組織活性化
- 店舗再編・経営資源の再配置による生産性向上
- 業務プロセス改革によるコスト圧縮と適正投資の推進
これまでの経営強化計画では、公的資本の返済を早期に完了し、自律的な経営基盤を確立するなど、財務面での成果も見られます。一方で今回の中期計画は「収益拡大」よりも「構造改革」を重視しており、数値目標の明示や進捗開示は限定的です。
今後の焦点は、これらの改革を定量的な成果につなげられるかどうかにあります。
- 中小企業支援の深化(事業承継・創業支援・経営改善)
- デジタル活用による業務効率化とコスト構造改革
- 人材育成と組織改革を通じた地域貢献の強化
地域経済とともに歩む金融機関として、南日本銀行が2026年3月の計画最終年度までにどこまで成果を示せるかが、今後の市場・地域双方からの評価を左右するポイントとなります。
強みと課題:投資家視点でのチェックポイント
強み
- ROE5.37%×PBR0.16~0.21倍と、割安圏にある一方で収益性は地銀平均並みまで回復している点。
- 金利感応度が相対的に低い資産構成(証券/総資産≒10.8%、社債/証券≒13.3%)。信用スプレッド拡大や長期金利上昇の評価損影響を受けにくい守りのポートフォリオ。
- 自己資本比率9.5%と健全性が改善基調。与信費用も大崩れせず、利益の“土台”が整いつつある。
- 中計(~2026/3)の5本柱(中小企業特化、人的資本、制度見直し、店舗・資源再配置、業務改革)で、構造面の手当てを同時に進めていること。
- 地域密着で中小企業向け融資比率が高いため、金利上昇時の利鞘拡大を取り込みやすい事業モデル。
課題
- 中計は構造改革重視で数値KPIの開示が薄い。進捗の見える化が弱いと、評価修正のトリガーになりにくい。
- 非金利収益の底上げ(事業承継・資産運用・決済等)がまだ十分とは言えず、ROEの“粘り”に課題。
- 預金ベータ上昇や金利反転で利鞘が想定より伸びないリスク。地域中小の悪化で信用コスト上振れ、有価証券の評価損も注意点。
- 規模の経済で勝る地銀(例:宮崎・東邦)に対し、収益多角化と効率性でどう追随・差別化するか。
まとめ
全体として、南日本銀行は「守りの資産構成」+「金利追い風の取り込み」という金利上昇のみに頼らない良いポジションを作っているようにみえます。
割安放置の背景を考えると「持続的ROEへの確信不足」に尽きるので、ROE5~6%の定着と非金利収益の伸長、が確認できれば、評価見直しの余地は大きいと感じます。
投資家目線のウォッチKPIは、
- NIM(資金利鞘)
- 与信費用率・不良債権比率
- 自己資本比率(規制・会計)
- 中計の定量進捗
辺りを見るとよいのではないでしょうか。
南日本銀行のようにリスクを抑えつつ堅実に収益を積み上げる地銀は、投資家からの再評価が進む可能性があります。まだまだ金利上昇の波が続く中、[過去五年続いたインフレが定着したのか」なども含めて、南日本銀行を今後も見守っていきたいですね。
投資は自己責任で。


出典
南日本銀行「会社概要(コーポレートメッセージ:話せるところ 頼れるところ)」
https://nangin.jp/about/nangin/outline.html
南日本銀行「会社情報」トップ
https://nangin.jp/about/
適時開示:第1次中期経営計画「インテグリティある組織への変革」の策定について(2023/5/31, PDF)
https://www.fse.or.jp/files/lis_tkj/23053185540.pdf
ディスクロージャー誌 DISCLOSURE 2024/2025(計画期間・重点施策の記載あり, PDF)
https://nangin.jp/ir/202501_D_ALL.pdf
南日本銀行「DX戦略」(基本方針, PDF)
https://nangin.jp/about/DX.pdf
プレスリリース:DX戦略の策定について(2025/6/13, PDF)
https://nangin.jp/information/contents/RELEASE_20250613_DX.pdf
決算短信:2025年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2025/5/9, PDF)
https://www.fse.or.jp/files/lis_tkj/25050985540.pdf
IRBANK(8554 南日本銀行:指標・PBR・株価データ)
https://irbank.net/E03670
https://irbank.net/8554/pbr
競合データ(鳥取・筑邦・東邦・高知・宮崎太陽・宮崎・豊和)の数値は最新決算短信・ディスクロージャー誌を参照してください。

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