ペロブスカイト時代の勝ち筋:K&Oエナジー[1663]が握る“国産ヨウ素”の話

ペロブスカイト関連の企業を探している中で、前回は製造メーカーとしてパナソニックを取り上げました。今回は、素材メーカーとして注目される K&Oエナジーホールディングス を見ていきます。

ペロブスカイト太陽電池の素材といえば「鉛」がよく取り上げられますが、実はヨウ素も主要な構成要素の一つです。

今後ペロブスカイトの普及が進む中で、日本がこのヨウ素資源をどのように活かして世界に供給していくのか。
今回は、その可能性とK&Oエナジーの立ち位置を詳しく見ていきたいと思います。

目次

ペロブスカイト太陽電池とは? 軽量・低コストの次世代型

最初に次世代型のペロブスカイト太陽電池について簡単に触れていきます。特徴は軽量で柔軟に曲げられる特性を持ち、これまで設置が難しかった壁面・車体・屋根の曲面などにも取り付けられる可能性を秘めた革新的な太陽電池です。
シリコン型に比べて製造コストを大幅に抑えられる点も特徴で、世界的に研究開発が加速しています。

日本国内でも実用化に向けた取り組みが進んでおり、東京都庁の外壁への実証設置や、KDDIによる通信基地局での発電試験などが行われています。こうした事例は、今後の普及に向けた重要な一歩として注目されています。
政府も「グリーンイノベーション基金」などを通じてペロブスカイト関連技術を支援しており、技術と政策の両面から市場形成が進みつつあります。

そして今、このペロブスカイト太陽電池の発電層を構成する主要材料の一つとして「ヨウ素」が再び脚光を浴びています。

ヨウ素は体内に入れてもアレルギー反応が少ない物質として古くから医薬として利用されてきました。また、電子分野や農業、家畜の肥料など幅広く利用され、長く一般的に普及してきた素材です。

近年は新興国での医療需要拡大を背景に、造影剤向けのヨウ素消費量が増加しています。これに加え、ペロブスカイト太陽電池という新たな大量用途が出てきたことで、世界的にヨウ素市場の成長が加速しつつあります。
富士経済の調査では、ペロブスカイト太陽電池の市場規模は2025年に約1,400億円2040年には約4兆円近くに拡大すると予測されており、素材需要にも大きなインパクトを与えると考えられます。

日本は世界第2位のヨウ素大国──K&Oエナジーの強み

世界のヨウ素市場は、チリが約60%、日本が約30%を占めており、日本は資源小国でありながら世界第2位の生産国という強みを持っています。
とくに千葉県を中心とする南関東ガス田では、地下のかん水(塩水)からヨウ素を効率的に抽出する技術が確立されており、国内生産の約8割がこの地域から供給されています。

この中心的プレイヤーの一つが、K&Oエナジーホールディングスです。
同社は日本国内産ヨウ素の約15%、世界生産量の約5%を担い、トヨタ通商などと連携しながらイオン交換樹脂法による高効率生産ラインの拡張を進めています。
これにより、環境負荷を抑えつつ安定的に高純度ヨウ素を供給できる体制を構築しつつあります。

ヨウ素資源が持つ日本の戦略的価値

日本はエネルギー資源の多くを輸入に頼っていますが、ヨウ素だけは自国内で採掘から精製まで完結できる数少ない鉱物資源です。
しかも、ヨウ素は米国地質調査所(USGS)によって「多くの用途で代替が難しい元素」と評価されています。

今後、ペロブスカイト太陽電池が普及し、発電層としてのヨウ素需要が急増すれば、日本は素材供給国としての新たな役割を担う可能性があります。
K&Oエナジーをはじめとする国内メーカーが増産やリサイクル技術の開発を進めることで、再エネと資源の両輪での成長戦略が期待されています。

5年の数字で読むK&O:売上・経常・ROE・PBR/PERのトレンド

2020年12月期から2024年12月期の過去五年の個人的に主要と思うデータをまとめました。(売上高・経常利益は「億円」四捨五入、PBR/ PERは各年末株価ベース)

決算期(連結)売上高 (億円)経常利益 (億円)ROE (%)PBR (倍, 期末)PER (倍, 期末)
2020年12月期58540.53.740.5213.93
2021年12月期66144.23.630.4913.40
2022年12月期1,06279.35.670.6511.39
2023年12月期963104.17.170.669.14
2024年12月期92498.36.401.0516.32

K&Oの業績は、ガスとヨウ素の「生産量×価格」に左右される構造がはっきりしています。
経常利益率は2020年の6.9%から2023年には10.8%まで上昇し、2024年も10%台を維持。ヨウ素価格の上昇とコスト管理の効果で、安定して高い利益率を確保しています。

ROEも3%台から6〜7%台に改善し、PBRは0.5倍台から2024年には1.05倍と、「割安株」から「評価される企業」へと転換してきました。(2025年9月現在PBR0.85)
PERが16倍台まで上昇しているのは、今後の成長期待(増産・新分野への展開)が織り込まれた結果です。

年次の流れと特徴

  • 2020〜2021年:コロナ禍でも安定した収益を維持。基礎体力を整える時期。
  • 2022年:ヨウ素市況が上昇し、売上は1,000億円を突破。利益率も上向きに。
  • 2023年:売上は減ったものの、経常利益は104億円と大幅増。ヨウ素価格の追い風が大きく寄与。
  • 2024年:売上は924億円、経常98億円で微減益。ただし利益率は高く、営業キャッシュフローや自己資本は過去最高水準

事業全体像:ガスで安定、ヨウ素で成長(周辺エンジニアリング含む)

K&Oエナジーグループは、名前の通り「エネルギー」を核とした総合資源企業です。
同社の最大の特徴は、天然ガスとヨウ素という2つの国産資源を、自社グループで開発から販売まで一貫して手掛けている点にあります。エネルギーの安定供給と、資源の高付加価値化。その両輪で事業を展開しています。

ガス事業 – 安定供給を支える「地域のエネルギー基盤」

まずK&Oの中核をなすのが「ガス事業」です。
グループの中核子会社である関東天然瓦斯開発株式会社が、千葉県を中心とした南関東ガス田で天然ガスを開発・採取しています。このガス田は日本でも数少ない「国産天然ガスの産地」として知られ、輸入に依存せず自社資源を活用できる点が大きな強みです。

採取されたガスは、グループ会社の大多喜ガス株式会社を通じて、千葉県や茨城県などの地域で都市ガスやLPガスとして供給されます。さらに電力の販売も手掛けており、いわば「地域密着型の総合エネルギー企業」として機能しています。

このガス事業の特徴は、単なる販売にとどまらず、上流(開発・採取)から下流(供給・販売)までをグループ内で完結できる垂直統合体制を築いていることであり、これにより、国際情勢や為替変動による燃料価格の影響を受けにくく、安定した収益基盤を確立しています。
また、ガス供給に伴う配管工事やガス機器販売、地熱井の掘削など、関連する建設・技術サービスもグループで担うことで、地域のインフラを総合的に支えています。

ヨウ素事業 – 世界に誇る“日本の資源”を高収益事業へ

もう一つの柱が「ヨウ素事業」です。
日本は世界でも数少ないヨウ素生産国のひとつであり、チリに次ぐ世界第2位の生産量を誇ります。その約8割が千葉県の地下かん水(塩水)から産出されており、K&Oはこの貴重な資源を自社ガス田から採取・精製しています。

ヨウ素は医療用消毒剤(イソジンなど)をはじめ、X線造影剤、液晶ディスプレイの偏光フィルム、電子部品、さらには次世代のペロブスカイト太陽電池まで幅広い用途で使われる重要素材です。代替の効かない“戦略物質”として、世界的にもその価値が見直されています。

K&Oでは、グループ会社のK&Oヨウ素株式会社を中心に、工業用・医薬用のヨウ素やヨウ素化合物を製造・販売しています。この会社には豊田通商が出資しており、販売・物流面でのパートナーシップも構築。国内シェアで2位、世界でも有数の生産量を誇る存在です。

このヨウ素事業は、売上構成比ではガス事業に及ばないものの、営業利益率が非常に高い「稼ぎ頭」です。2023年度の決算でも、ヨウ素事業の営業利益は69億円と、ガス事業を上回る水準を記録しました。ガスとヨウ素を組み合わせた事業モデルにより、安定性と収益性の両立を実現しているのがK&Oの特徴です。

その他の事業 – “核”を支える周辺領域

K&Oは、ガス・ヨウ素の2本柱に加えて、それを支える周辺事業も展開しています。
ガス販売に付随する土木工事・配管施工・ガス機器の販売のほか、地熱井や地下資源の掘削事業など、技術力を活かしたエンジニアリング領域にも広がりを見せています。さらに、米国での石油・ガス開発や再生可能エネルギー分野(洋上風力発電など)にも参入を検討しており、長期的な成長の芽を育てています。

これらの周辺事業は、ガス・ヨウ素という「コア資源」を支える技術・サービス基盤として機能しており、エネルギー事業全体の総合力を高める役割を果たしています。

競合比較:伊勢化学/豊田通商/ENEOSとのポジションと違い

2024年度期末(伊勢化学=2024年12月期、K&O=2024年12月期、豊田通商・ENEOS=2024年3月期)ベースで、
決算短信・に基づき数値を出した比較表です。
ENEOSは「税引前利益」を経常利益の代替としています。(単位は億円・倍です。)

企業売上高
(億円)
経常利益
(億円)
ROE(倍)PBR(倍)PER(倍)
K&Oエナジーグループ(1663)962.9104.010.60.8812.3
伊勢化学工業(4107)332.974.415.04.6532.6
豊田通商(8015)10,188.94,696.015.11.4610.9
ENEOSホールディングス(5020)13,8566.23,678.68.40.687.6

伊勢化学工業(4107)
医薬・電子材料などに使われるヨウ素の国内トップメーカー。千葉県・茨城県の自社ガス田からヨウ素を採取し、世界シェアでも首位クラスを誇る。
ヨウ素の生産・精製を主力事業としており、まさに日本を代表するヨウ素専業企業。

高ROE・高利益率のヨウ素専業メーカー。市場プレミアムがPERに反映されている。

豊田通商(8015)
トヨタグループの中核商社で、金属・エネルギー・化学品・食料など幅広い事業を展開。世界130か国以上に拠点を持つ総合商社。
K&Oヨウ素株式会社に出資し、ヨウ素の販売・流通面で連携している。

ROE・利益水準ともに高く、K&Oヨウ素への出資を通じヨウ素事業にも間接参入。総合商社の中でも高収益体質。

ENEOSホールディングス(5020)
日本最大の石油・エネルギー企業グループ。石油精製・販売に加え、電力・再エネ・水素など多角的に事業を展開。
千葉県のガス田から年間400トン規模のヨウ素を生産しており、国内生産シェア上位。

税引前利益3,678億円と巨額ながらROEは8%台、PBR0.7倍と依然バリュー株水準。ヨウ素増産計画を持つ。

中計2027とVISION2030:増産・循環・新領域(CCS/地熱/洋上風力)

中長期構想「VISION2030

K&Oエナジーグループは、2030年に向けた中長期構想として「VISION2030」を掲げています。
その中で明確にしているのは、5つの方向性です。

  • 天然ガス・かん水の安定生産
  • 再生可能エネルギーの開発
  • 地域に密着した総合エネルギーサービスの拡充
  • アライアンス強化によるヨウ素の増産・拡販
  • 2050年カーボンニュートラルへの挑戦

この大きな方針を具体的に実行に移すための3カ年計画が、現在進行中の中期経営計画「中計2027(2025–2027)」です。この計画は、単に売上や利益の数字を追うものではなく、「安定と成長の両立」をテーマに、ガス・ヨウ素の事業基盤を強化しながら新たな成長領域を育てることを狙っています。

中期経営計画2027の3つの戦略ブロック

K&Oの中計は、「コア事業戦略」「未来事業戦略」「経営基盤戦略」の3つの柱で構成されています。

A. コア事業戦略(資源開発・エネルギー事業・ヨウ素事業)

まず、K&Oの根幹を支える資源開発では、生産井4本+還元井4本の新設を計画。
3年間で154億円の投資を行い、生産能力の維持・拡大に加え、地盤沈下の抑制や環境対策(窒素排水対応、衛星観測によるモニタリングなど)を強化します。
これは、地下資源事業の“レジリエンス(強靭性)”を高める取り組みといえます。

エネルギー事業では、都市ガス・LPガス・CNG・電力などを組み合わせた地域密着型の総合エネルギー供給体制を推進しており、「S+E+E+E(Safety+Economy+Efficiency+Environment)」をキーワードに、安全性・経済性・効率・環境配慮の4要素をバランス良く最適化し、地域顧客への価値提供を深めます。

ヨウ素事業では、2027年度に年間1,900トン(ヨウ化カリウム含む)まで生産を引き上げる計画です
約30億円の設備投資
を実施しガス井戸近くに吸着設備を増設してかん水からのヨウ素回収率を向上
造影剤需要の増加や、ペロブスカイト太陽電池など新用途の広がりを背景に、生産体制を強化します。

B. 未来事業戦略(再エネ・CCS・森林保全)

次に、将来の柱を育てる「未来事業」では、再エネ・CCS・森林保全の3領域を重点化しています。

再エネ分野では、これまでの地熱開発で中計2024の目標を超える成果を挙げており、今後は発電やカーボンクレジット創出まで視野を広げます。

CCS(Carbon Capture and Storage=二酸化炭素貯留)では、「首都圏CCS事業」に参画します。
2024年8月にはJOGMEC(石油・天然ガス・金属鉱物資源機構)の「先進的CCS事業」に正式採択されました。
千葉県外房沖の海域堆積層を貯留層とし、年間約140万トンのCO₂貯留を想定しており、INPEXや日本製鉄などと共同で実現性を検討しています。

また、森林保全プロジェクトにも取り組み、2030年頃までに国内外での森林保全を通じてCO₂吸収・クレジット化を推進していきます。
自社のバリューチェーン全体で排出するCO₂をオフセットし、グループ全体でのカーボンニュートラル化を目指します。

C. 経営基盤戦略(人材・DX・ガバナンス)

事業の“根”を支えるのが、経営基盤の強化です。

人材面では、女性採用比率30%以上を掲げ、多様性のある組織づくりを進めています。
教育制度やキャリアモデル整備にも注力し、現場技術者からマネジメント層まで、長期的に活躍できる人材基盤を築きます。

DX(デジタル変革)では、生産・供給ラインのレジリエンス向上に加え、AIやスマートデバイスを活用して業務効率を高めています。また、ガスの安全供給やヨウ素生産データのモニタリングなどにデジタル技術を導入し、現場のリスク可視化を進めています。

ガバナンスでは、取締役会の実効性評価やステークホルダーとの対話など、6つの重点施策を定め、持続的成長を支える経営体制の高度化を図っています。

具体的な目標KPIと成果の読み方

中計2027では、定量的なKPI(経営目標)も明確に示されています。

  • 経常利益:75億円→2024年段階で87億円に上振れ
  • 国産天然ガス生産量:1.8億m³/年→未達
  • 脱炭素関連開発件数:12件
  • ガス販売獲得量:累計540万m³→未達
  • ヨウ素販売量:1,900t/年(ヨウ化カリウム含む)→未達
  • お客さまアカウント数:21万件
  • 重大事故件数:0件

また、マテリアリティ(重要課題)とそれぞれのKPIが明確に対応づけられており、「安全」「環境」「地域」「成長」の4軸を重視した構成になっています。

前中計(中計2024)では、ヨウ素市況の好転により経常利益が48億円→実績見込み87億円と大きく上振れ。
ROAも2.9%→4.7%まで改善しました。
一方で、ガス生産量とヨウ素販売量は計画未達であり、今回の中計では増産投資と回収率改善
でこの遅れを取り戻す方針です。

特筆すべきは、2027年度の経常利益目標「75億円」があえて控えめに設定されている点。
2024年の実績を上回る可能性が高いにも関わらず、市況の平準化を前提に置いているため、
実際にはヨウ素価格や販売数量が想定を超えた場合、上振れ余地を残す戦略的な計画となっています。

ヨウ素事業の今後の展望(国内外の需給動向・資源政策・産業用途)

世界の需要動向:医療と新技術がけん引

医療・ハイテク分野がけん引する安定成長

ヨウ素の最大用途は医療です。
CTやX線検査で使われる造影剤、甲状腺疾患の治療薬、うがい薬など、いずれもヨウ素が欠かせない原料となっています。
特に新興国では医療インフラの整備が進み、造影剤需要が年々増加。先進国でも高齢化が進む中で検査需要が底堅く、医療分野は長期的な安定需要を支える柱となっています。

加えて、液晶ディスプレイ(LCD)の偏光フィルム半導体製造工程の薬剤など、ハイテク分野でもヨウ素の用途が広がっています。
農業・畜産分野では、飼料添加剤や殺菌剤として利用され、環境や衛生の維持に貢献しています。
これらの既存用途が、ヨウ素市場全体の底堅い成長を支えているのです。

ペロブスカイト太陽電池がもたらす“新しい需要”

今後の大きな注目点は、ペロブスカイト太陽電池の普及による新規需要の発生です。
ペロブスカイト型の発電層では、結晶構造の中でヨウ素が主要材料のひとつとして使われます。
量産化が進めば、既存の医療・工業用途を上回るスケールでヨウ素が必要になる可能性があります。

実際、国内のエネルギー大手もこの動きを見据えています。
INPEXは年間約600トン、ENEOSは約440トン規模のヨウ素生産を行っており、いずれもペロブスカイト需要を見越した増産体制の強化を進めていると報じられています。
こうした動きは、K&Oエナジーを含む国内ヨウ素メーカーにとって長期的な成長機会となるでしょう。

世界の供給構造と新たな生産開発

ヨウ素の世界生産は、チリが約60%、日本が約30%を占めています。
この2カ国でほぼ世界の生産を支えており、寡占構造による安定供給が続いています。

チリでは硝石鉱床から副産物としてヨウ素を抽出する方法が主流で、SQM社など大手が低コストで生産しています。
一方、日本は千葉県の南関東ガス田を中心に、地下のかん水(塩水)からヨウ素を抽出する方式を採用。
最近では茨城県や秋田県など、他地域でも新しいガス田開発が進められており、国産資源としての裾野拡大が進行中です。

また米国オクラホマ州でも少量生産が行われ、英国Iofina社などが油田廃液からヨウ素を回収する新技術を展開しています。
こうした多様化の動きは、長期的な需給バランスの安定に寄与するでしょう。

中国を中心とする“巨大需要国”の存在

最大の需要国は中国です。
2023年の中国のヨウ素輸入量は約7,400トンに達し、国内需要の大部分をチリと日本からの輸入で賄っています。
中国国内の生産量は1,000トン未満にとどまり、輸入依存度が高いため、今後も既存生産国の供給安定化が重要になります。

この構図は、日本にとってチャンスでもあります。
安定した供給体制を築ければ、医療・電子・再エネ分野における素材輸出国としての存在感をさらに高められるからです。

■ 環境対応・リサイクルの進展

ヨウ素は希少資源である一方、再利用が可能な素材でもあります。
近年、医療廃液や造影剤からヨウ素を回収するリサイクル技術が進んでおり、欧米ではGEヘルスケアやBracco社が病院向け回収プログラムを展開。
中国でも同様の取り組みが広がり、国内無機ヨウ素化合物の約半分を再生ヨウ素で賄う企業も登場しています。

日本でも、使用済み造影剤や産業廃液からヨウ素を再生利用する研究が進められており、循環型供給モデルの構築が将来的な課題です。
これにより、環境負荷を抑えながら需要増に対応できる持続可能な産業モデルが形成されつつあります。

ヨウ素は“静かなる戦略資源”

医療・電子・再生可能エネルギーの分野で確実に需要が広がる中、ヨウ素は今後も持続的な成長が期待できる戦略素材です。一方で、供給国がチリと日本に集中しているため、地政学的リスクや市況変動には注意が必要です。

K&Oエナジーは、自社が保有する千葉の高濃度ヨウ素資源を軸に、効率的な増産と環境対応を両立させることで、
「安定供給 × 成長市場対応」の両輪を回せるポジションにあります。

ペロブスカイト太陽電池が本格的に普及すれば、ヨウ素需要は新たな局面を迎えます。
その時、日本のヨウ素メーカーがどれだけ世界の供給網を握れるか。
まさに今が、その「次の成長ステージ」への準備期間といえるでしょう。

K&Oエナジーグループの強み・弱み

強み

  • 自前資源×垂直統合:南関東ガス田を源泉に、採掘→製造→販売まで一気通貫。LNG輸入依存が小さく、為替・輸送コストの影響を相対的に受けにくい。
  • “ガスで安定/ヨウ素で上振れ”の収益設計:インフラ収益で土台を固めつつ、ヨウ素市況・数量のレバレッジで利益を引き上げられる。
  • 希少資源の地の利+技術:高濃度の地下かん水を背景に、精製・化合物展開まで対応。医薬・電子向けの高付加価値分野に手が届く。
  • 販売網と情報力:大手商社(例:トヨタ通商)との連携で、国際販路・市況情報を取り込みやすい。
  • 財務の頑健さ:自己資本厚め・有利子負債小さめのため、増産や新規事業に踏み出しやすい。

弱み

  • 事業規模の制約:人材・資金の絶対量は大手に劣る。大型案件やスピード勝負の投資で見劣りする局面がある。
  • 地域集中リスク(ガス):販売エリアが千葉中心。人口動態や電化進展、産業稼働の変動に晒されやすい。
  • 資源・設備の寿命問題:ガス井・ヨウ素井戸は有限。可採年数や自然減衰、保全コストは常に課題。
  • 過去の資本効率の低さの残像:近年改善したが、長く低ROE・低PBRだった記憶が市場に残る。

まとめ

K&Oは、自前の国産ガス田高収益のヨウ素をセットで持つ、ちょっと珍しい「資源×エネルギー企業」です。
言い換えると、ガスで安定しつつ、ヨウ素で成長を取りに行く二枚看板を持つとも言えます。

一方で、規模の小ささ・地域集中・資源寿命・市況変動という4つの課題は常につきまといます。
だからこそ、会社側が「増産の確度(イオン交換樹脂法など)」「循環・環境対応(リサイクル)」「新需要の捕捉(ペロブスカイト等の量産採用と契約化)」をいつ・どれくらい前倒しで行えるかは注目ポイントとなりそうです。

ここまで記事を作ってきて、現状調べて決算時にチェックしたいKPIだけまとめておきます。

  • ヨウ素:販売“数量”と“平均販売単価”、増産ラインの稼働時期・能力
  • ガス:販売量(地域需要・産業稼働)、調達・販売のコスト動向
  • キャッシュ:営業CFの伸びと、設備投資(増産・環境対応)への配分、還元(配当・自社株)
  • 新領域ペロブスカイト関連の商談/契約の具体化、CCS・地熱・洋上風力などの進捗

足元は“安定を守りつつ、成長の芽をどこまで実装できるか”の段階です。
ペロブスカイト
を主とする新用途が実需化すれば、ヨウ素は数量×価格の両面で追い風になるのか。
今後も注目していきたいですね。

出典

K&Oエナジーグループ|企業情報(会社概要)
https://www.k-and-o-energy.co.jp/corporate/outline/ K&Oエナジーグループ株式会社

同|ヨウ素事業(概要・製造法)
https://www.k-and-o-energy.co.jp/corporate/details/iodine.html K&Oエナジーグループ株式会社

K&Oヨウ素|会社概要(豊田通商が株主)
https://www.k-and-o-iodine.co.jp/about/company/K&Oヨウ素株

IRBANK|1663 K&Oエナジーグループ 決算まとめ(2014–2025)
https://irbank.net/E30048/results IR BANK

IRBANK|1663 適時開示・決算発表履歴(予想・上方修正等)
https://irbank.net/1663/pl IR BANK

ペロブスカイト太陽電池(政策・実証・市場環境)

経済産業省 産業構造審議会(GI基金・次世代太陽電池 WG資料, 2025年7月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/green_power/pdf/013_05_00.pdf

経済産業省

経済産業省(GI基金の進捗資料, 2025年8月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/green_innovation/green_power/pdf/013_s03_00.pdf

経済産業省

NEDO|グリーンイノベーション基金「次世代型太陽電池の開発」
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/next-generation-solar-cells/

NEDO グリーンイノベーション基金

東京都|次世代型ソーラーセル(ペロブスカイト)内窓 実装検証(2025/7/18)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/07/2025071804

東京都庁

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