金価格高騰の裏で割安放置?住友金属鉱山【5713】の将来性を読み解く

最近、「閉山したはずの金山から再び金が見つかった」というニュースを見てこれは何か面白いアイデアになるのではと思いました。ゴールドラッシュでは、金を掘った人よりツルハシを売った人が儲かったなんて言いますが、今の技術を持ってすれば金を掘る人も儲かるのでは?と思い、『日本にも金を扱う上場企業や産金株ってあるのだろうか?』という疑問が生まれました。

そうして調べてみると、目に留まったのが、住友金属鉱山です。日本で唯一の産金株として知られ、金の価格動向と連動しやすい特徴を持ちながら、同時に非鉄金属や先端素材の供給でも存在感を示しています。まさに“資源と成長”の両面を持つ企業でした。これは面白そうと思い調べてみることにしました。

目次

数字で見る住友金属鉱山の業績推移と割安評価

住友金属鉱山 業績推移(連結)

決算期売上高(億円)経常利益(億円)自己資本比率(%)ROE(%)期末PBR(倍)
2021/39,2611,23459.18.41.18
2022/312,5913,57463.719.41.17
2023/314,2302,29960.39.80.85
2024/314,454958593.40.71
2025/315,93331460.10.90.48

住友金属鉱山の業績推移をみると、2025年3月期の売上高は約1.59兆円、経常利益は約313億円となっています。売上は安定して伸びているものの、利益率は縮小傾向が続いており、やや厳しい構図が浮かび上がります。

特に注目すべきは、2025年3月期の期末PBRが0.48倍であることです。これは資産価値に対して株価が大きく割安に放置されていることになります。今年度に入って株価は少しずつ持ち直し、2025年8月時点ではPBRが0.57倍まで戻ってきました。しかし、それでもなお1倍を下回る「割安感」が根強い点は見逃せません。

さらに、株主資本の収益性を示すROEは0.89%と低迷しています。背景には、先行投資に伴う大規模な減損処理を前倒しで計上したことがあり、その影響で純利益が大きく押し下げられました。

こうした状況は、「一時的な要因による利益減」と見ることもできますし、「低ROEのまま市場から割安評価で放置されている」と解釈することもできます。どちらにせよ、今後の業績回復や成長戦略の実行次第で評価が変わっていく局面といえるでしょう。

資源・製錬・素材を一貫する独自のビジネスモデル

公式ホームページを見てみると、住友金属鉱山の独自の強みは、資源開発・製錬・機能性材料の3つの事業を一貫して展開している点にあります。これにより、他社が簡単に模倣できない競争優位を築いています。さらに、リサイクル・環境・物流といったグループ事業も加え、多角的な事業ポートフォリオを形成しています。

1. 資源事業(鉱山開発・運営)

最も象徴的なのは、日本唯一の金鉱山である菱刈鉱山(鹿児島県)です。
世界的に高品位とされる鉱山でも平均5〜10g/tですが、菱刈鉱山は約20g/tという非常に高品位を誇り、安定した生産が続いています。

また、海外でもチリ、カナダ、ペルー、米国などに銅・金鉱山の権益を保有し、多地域型の資源ポートフォリオを構築しています。

2. 製錬事業(資源+技術+循環のハイブリッド)

製錬事業は単なる鉱石加工にとどまらず、循環型の仕組みを持つ点が特徴です。

  • 愛媛県の東予製錬所は年間約45万トンの生産能力を持つ世界トップクラスの銅精錬拠点。ここで菱刈の金鉱石も精錬され、純度99.99%のゴールドバーに加工されます。
  • フィリピンではHPAL技術を用いて低品位鉱石から効率的にニッケル・コバルトを抽出し、EV電池用の原料を安定供給。
  • さらに「Battery to Battery」リサイクルにより、使用済みリチウムイオン電池から金属を回収し、新たな電池材料として循環利用しています。

3. 材料事業(機能性素材)

材料事業は「電池材料」と「機能性材料」の二本柱。

  • 電池材料では、NCAやNMCといったEV用正極材を自社グループで一貫生産。世界トップクラスのシェアを誇ります。
  • 機能性材料では、光通信に使う光アイソレータ、液晶パネル用FCCL、パワー半導体向けSiC基板など、次世代通信・電子機器に欠かせない素材を幅広く展開しています。

4. グループ事業

資源・素材事業に加えて、リサイクル・環境・物流・先端処理も展開。

  • 都市鉱山や電子廃材から金・銀を回収する貴金属リサイクル
  • 水処理・排水無害化などの環境事業
  • 医療・食品包装向けの放射線滅菌処理
  • 環境に配慮した安全な物流

これらは「社会を支える見えない力」として、同社のサステナブルな姿勢を体現しています。上の4つの事業の事業シェアをみると製錬事業が収益の柱(約7割)を占めるます。一方、EV電池向けを中心とする材料事業が成長ドライバーとして期待されます。さらに資源事業は将来の収益基盤、その他事業は持続可能性を支える役割を担っています。

売上高
シェア

2025年3月期 事業別 売上高シェア

  • 製錬事業:70.4%(1,230,694百万円)
  • 材料事業:17.0%(296,513百万円)
  • 資源事業:12.0%(210,716百万円)
  • その他:0.6%(11,164百万円)

競合他社との比較から見えるSMMの強みと弱み

国内の非鉄・鉱業大手の中で、住友金属鉱山(SMM)は 三菱マテリアルに次ぐ業界3〜4位級の規模を誇ります。売上規模では上位に位置しながら、事業ポートフォリオの内容や強みは他社と異なります。

企業名売上高(億円)PBRROE特徴
住友金属鉱山(SMM)15,9330.57倍0.89%国内唯一の産金株。低ROEで割安。
三菱マテリアル19,6210.50倍0.64%非鉄・セメント・化学を持つ総合素材。
DOWAホールディングス6,7870.79倍7.6%都市鉱山・環境リサイクルに強み。
三井金属鉱業7,1231.67倍20.7%亜鉛・銅中心で高ROE。

三菱マテリアルは、銅・金属製錬に加えてセメントや化学品まで手がける総合素材メーカーです。
規模の大きさで業界を牽引しますが、収益効率(ROE)は低めで「規模重視型」といえる存在です。

DOWAホールディングスはリサイクル・環境事業で突出しており、都市鉱山からの金属回収や廃棄物処理に強みがあります。電池リサイクル分野ではSMMと協業する一方で競合関係にもあり、「安定した収益体質」を特徴としています。

三井金属鉱業は亜鉛・銅を主力にリサイクルも展開。

規模ではSMMに及ばないものの、高ROEを実現しており「収益効率の高さ」で投資家からプレミア評価を受けています。

JX金属はENEOS傘下で、銅・亜鉛に強みです。
石油系との一体経営のため非鉄専業度は低いものの、資本基盤を背景に安定感のある事業運営を行っています。

一方の住友金属鉱山(SMM)は、国内唯一の高品質金鉱を持ち、ニッケルからEV用正極材までを一貫供給できる垂直統合サプライチェーンを確立。さらにSiC基板や触媒など先端機能材料も展開しており、「資源+製錬+素材」をすべて揃えた国内でも稀有な存在です。

総じて、三菱マテリアルは 「規模」、DOWAは 「リサイクル」、三井金属は 「収益性」で強みを持つ中、SMMは 「資源から最先端素材までの幅広さ」で差別化しているといえます。

中期経営計画2027:資源供給力と新素材開発の青写真

中期経営計画2027(中計27)

住友金属鉱山は、2025〜2027年度を対象とする「中期経営計画2027(中計27)」を発表し、明確な数値目標を掲げています。

  • ニッケル生産量:年間15万トン
  • 銅権益生産量:年間30万トン
  • 材料事業の税引前利益:250億円規模
  • 親会社株主に帰属する当期利益:1,500億円規模
  • 設備・投融資:3年間で約4,370億円

こうした数値目標を支える戦略として、同社は「資源メジャーに並ぶ供給力の確立」「電池材料事業の再構築」「リサイクルと新素材開発による新たな成長」の3本柱を掲げています。言い換えれば、資源の安定確保を土台としながら、電池分野の競争力を取り戻し、さらにリサイクルや先端素材によって将来の成長機会を創出していくという、総合素材企業へ進化するための道筋が明確に示されているのです。

成長戦略の柱

中期計画の数値目標を支えるために、同社は以下の具体的な戦略を展開しています。

  1. 海外鉱山権益の拡大
    – 豪州Winu銅・金プロジェクトに参画し、銅・金・リチウム分野の供給基盤を拡充。
  2. 既存鉱山の安定稼働
    – QB2銅山やコート金山を立ち上げ、菱刈金山などと併せて資源供給を底上げ。
  3. EV・電池材料の拡張
    – 正極材生産を2030年に18万tへ拡大
    – NMC・LFP・全固体電池素材など、多様なニーズに対応。
  4. 技術革新とリサイクル
    – 電池リサイクル工場を2026年に稼働し、2028年度に年間1万t処理を目指す。
    – ブラックマス再資源化や副産物利用も進める。
  5. 連携・提携
    – 国内外の企業・研究機関と協業し、次世代電池や先端素材の共同開発を推進。

住友金属鉱山の中期経営計画27を読むと、単なる鉱山会社からの脱皮を本気で狙っていることが伝わってきます。資源の強さを土台にしつつ、電池材料やリサイクルといった次の成長分野へ舵を切る姿勢は明確に見えます。特にEVや先端素材に挑む姿勢からは「未来に必要とされる企業になる」という思いを感じます。
大きな投資を伴う計画ですが、その先に描くビジョンがどこまで現実になるのか注目したいところです。

金資産の市場評価 ― PBR割安の背景を探る

住友金属鉱山(SMM)は、国内で唯一の産金株として投資家の注目を集めています。中でも菱刈金山は、世界的にも稀な高品位(平均20g/t前後)を誇り、1980年代から安定した生産を続けてきました。ここで生産される金地金は、国際的な信頼を得る「Good Delivery Bar」にも適合し、品質ブランドとしての価値が確立されています。こうした資産背景は、同社の収益基盤を下支えする「実物資産」として長期的な安定感をもたらしています。

しかし、市場評価は必ずしも金の価値を十分に織り込んでいるとはいえません。実際、これらの資産は隠れ資産としてたびたび話題に上がりますが、決算書に明示的に金鉱山の評価額は出てこず、文章でさわり程度に触れられているだけです。直近の金価格は2020年代後半にかけて上昇基調にありますが、SMMの株価は金相場ほどには反応しておらず、PBRは依然1倍を大きく下回る水準で推移しています。これは、菱刈を含む鉱山権益やリチウムなどの戦略資源が、市場で過小評価されている可能性を示しています。

証券アナリストのレポートなどを読んでみても、強気な見方と慎重な意見が交錯しており、株価の先行きに対しては中立的なスタンスが優勢です。ただし、金が「インフレヘッジ」や「安全資産」として再評価される局面では、住友金属鉱山の存在感が改めて注目される可能性があります。特に需給がひっ迫する状況では、割安に放置されてきた株価が修正される余地を持つと言えるでしょう。

要するに、SMMは「資源と素材の総合企業」でありながら、実物資産としての金を背景にした特異なポジションを持っています。市場が金の価値をどのように織り込むかによって、同社株の評価は大きく揺れ動くことになるのではないでしょうか。

まとめ:割安に放置された成長ポテンシャル株

住友金属鉱山は、国内で唯一の産金株という特異な存在感を持っています。菱刈金山に代表される高品質な金資産は、世界基準の信頼性を誇り、同社の強固な収益基盤を支えています。それにもかかわらず、株価指標を見るとPBRが1倍を大きく下回る割安水準にとどまっており、市場が金資産や鉱山権益を十分に評価していないことがうかがえます。

一方で、世界的な金価格の上昇基調や、インフレヘッジとしての「金」の再評価が進む局面では、住友金属鉱山株の見直し余地は大きいと考えられます。特に需給ひっ迫時には「実物資産を持つ企業」としての強みが再び脚光を浴びる可能性があります。

さらに同社は、金だけでなくニッケルや銅など戦略金属の供給力強化EV電池材料やリサイクル分野への展開など、多角的な成長戦略を描いています。中期経営計画2027では、資源メジャーに並ぶ供給力を確立し、電池材料や新素材の領域で新たな収益源を確立する姿勢を打ち出しており、将来的には「総合素材企業」としての存在感を高める可能性があります。

まとめると、住友金属鉱山は「割安に放置されがちな産金株」であると同時に、資源・電池・リサイクルを軸にした成長企業でもあります。金資産の市場評価が改めて見直される局面や、新素材分野での成果が形になったとき、株価は大きく変動する余地があります。そのあたりを鑑みると、今後も注目していきたいですね。

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