宮崎太陽銀行[8560]:金利感応度と中期計画で見る再評価シナリオがあるのかの話

先日、日銀の副総裁発言が話題になりました。

2025年9月2日の氷見野日銀副総裁は、基調物価が2%に近づくメインシナリオなら利上げ継続が適当との認識を示しました。OIS(9月2日時点)では9月会合(9/18–19)の利上げ確率は1割未満年内0.25%の織り込みは約6割です。長期金利は1%近辺が意識され、「金利のある社会」への本格移行が意識される局面です。

マイナス金利の終了と前回、前々回の金利上昇でメガバンク、大手地銀は見直されましたが、地方の第二地銀、人口減少地域の地銀は将来性などもあり、放置されている印象です。

前に東和銀行を調べた際に、金利上局面では粗利改善が起きる一方、社債の含み損が増加するという話を書きました。

そこで今回は、低PBR、社債保有率に注目して銀行株を調べました。その中で非常に低PBRの宮崎太陽銀行を基準に調べていきます。

目次

会社概要 ― 地域に光を届ける「太陽」のような存在をめざして

宮崎太陽銀行は、1941年に「宮崎無尽株式会社」として誕生しました。相互銀行を経て1989年に普通銀行へ転換、1990年には福岡証券取引所に上場し、今では宮崎県の第二地方銀行として地元に根ざしています。

店舗は(銀行単体で)本店ほか支店52、実運営の内訳は宮崎県内45、鹿児島5、大分1、福岡1、加えてネット支店1という構成です。2025年3月末時点での連結総資産は約8,147億円、従業員は約600名、資本金は88億円を超えています。過去には公的資金注入を受けた時期もありましたが健全化を果たし、現在は地元金融機関や政府系機関が株主として支えています。

中小企業・個人向けの金融に加え、事業承継・M&A・人材・販路支援などコンサル機能を強化を行い、これからも「最も身近な金融機関」として、地域とともに歩み、次世代へとその絆をつないでいくを大切にしています。

財務と業績分析 連結ベース(2021年~2025年):安定と課題

宮崎太陽銀行の直近5年間(2021年3月期~2025年3月期)の主要業績指標を以下の表にまとめます。

年度(3月期)経常収益
(億円)
経常利益
(億円)
自己資本比率(%・連結)ROE(%)PBR(倍)PER(倍)
2021年3月期13920.18.72.580.114.28
2022年3月期13021.78.53.00.093.06
2023年3月期14424.68.33.850.133.42
2024年3月期14618.98.43.90.184.50
2025年3月期1491908.233.10.165.02

見どころ

業績面

  • 経常収益は安定的:130億〜150億円のレンジで推移。直近2025年は148.6億円と、過去5年でほぼ横ばい〜微増
  • 経常利益は波がある:2023年に24.6億円とピークをつけたが、2024年以降は減少し、2025年は約19億円に落ち着いた。収益力にやや揺らぎが見える。

財務健全性

  • 自己資本比率(連結)は一貫して8%台で推移。国内基準での規制水準(4%)を十分に上回っており、安定した資本バッファーを維持。(会計上の自己資本比率は5.31%で推移している点は区別が必要。)
  • 大きな改善や悪化はなく、安定的な財務基盤といえる。

株主指標

  • ROEは3%前後で低位安定。2023年に3.85%とやや高まったが、依然として「資本効率」という点では伸び悩み。
  • PBRは0.1〜0.2倍台と低水準で推移。市場からは「資産価値に対して株価が大きく割安」と見られている。
  • PERは3〜5倍程度で推移。利益水準の割に株価は低く、収益成長への期待が限定的であることを示唆。

業務概要

宮崎太陽銀行は、預金・貸出といった基本業務を軸に、中小企業や個人への資金供給を通じて地域経済を支えています。2025年3月期には貸出残高が前年比68億円増加し、宮崎市を中心に県内全域でバランスよく展開しています。

一方で、取引先の販路拡大を支援する「本業サポートWith」や事業承継・人材紹介など、コンサルティング型のサービスを強化。大学との産学連携やスタートアップ支援、補助金活用の助言、さらに高校生・大学生への就職マッチングなど、金融を超えた活動にも積極的です。これらを通じて、銀行という枠を超えた地域の成長パートナーとしての役割を果たしています。

競合比較:ROE・PBR・PERで見る立ち位置(2025年3月期)

九州の地銀や第二地銀、低PBRの地銀をまとめて比較していきます。比率は単体ベース(2025/3)

自己資本規制比率(国内基準・連結)を表記/(会計上の)自己資本比率ではない

行名経常収益
(億円)
経常利益
(億円)
自己資本比率(%)ROE(%)PBR(倍)PER(倍)
南日本銀行165.127.59.505.370.172.95
鳥取銀行163.219.08.602.710.269.06
筑邦銀行192.011.59.153.100.268.49
東邦銀行704.4112.010.753.710.5211.9
高知銀行234.812.28.821.700.180.94
宮崎太陽銀行148.618.98.233.080.165.16
宮崎銀行801.9139.55.160.375.77
豊和銀行103.813.410.673.040.092.81

ROE比較(2025年3月期)

PBR比較(2025年3月期)

PER比較(2025年3月期)

2025年3月期の地方銀行各社の業績と財務指標を整理すると、宮崎太陽銀行の立ち位置がよりわかります。

経常収益や経常利益は、九州の地銀としては安定した水準を維持しました。自己資本比率は8.23%(連結)と金融庁基準を十分に上回っており、健全性の面では特段の不安はありません。

一方で株主指標を見ると特徴が際立ちます。**ROEは3.08%と全国的に低位安定する地銀の中では平均的ですが、PBRは0.16倍PERは5.16倍と極めて割安に放置されています。これは、収益成長への市場の期待が限られていることが要因として考えられます。

競合と比べると、鳥取銀行や筑邦銀行もPBR0.2倍台にとどまっており、地方銀行全体が「資産に比べて株価が安すぎる」状況です。ただ、例えば東邦銀行は経常収益7,044億円・経常利益1,120億円と規模が大きく、ROEも3.71%と相対的に高いためPBR0.52倍とやや評価が進んでいます。宮崎銀行もROE5.16%と効率性が高く、PBR0.37倍と同地域内では比較的高い評価を受けています。

宮崎太陽銀行は、健全性を維持しながらも収益拡大力には乏しいため、株価は長らく低評価のままです。ただし逆に言えば、資本の安定性に比して株価が著しく割安であるとも言えます。

金利感応度:保有債券と有価証券の比率

銀行別 社債・証券・総資産比較(2025年3月期・単体ベース)

銀行名社債残高(億円)証券合計
(有価証券)
総資産社債/証券比率
(%)
社債/総資産比率(%)
南日本銀行120899億円8,301億円13.31.4
鳥取銀行2,3271兆1,058億円11兆647億円21.02.1
筑邦銀行5542,149億円8,739億円25.86.3
東邦銀行1,5791兆2,076億円6兆6,532億円13.12.4
高知銀行1,1662,836億円1兆1,535億円41.110.1
宮崎太陽銀行6501,617億円8,112億円40.28.0
宮崎銀行5787,768億円4兆718億円7.41.4
豊和銀行3241,108億円5,995億円29.25.4

社債/証券比率(2025年3月期)

13.3%
南日本
21.0%
鳥取
25.8%
筑邦
13.1%
東邦
41.1%
高知
40.2%
宮崎太陽
7.4%
宮崎
29.2%
豊和

社債/総資産比率(2025年3月期)

1.4%
南日本
2.1%
鳥取
6.3%
筑邦
2.4%
東邦
10.1%
高知
8.0%
宮崎太陽
1.4%
宮崎
5.4%
豊和

金利が上がると債券価格は下がります。銀行の影響を見る簡単なコツは、①総資産に対する有価証券の大きさと、②その中で社債がどれだけ占めるかの2点です。社債は金利だけでなく信用スプレッドにも反応するため、国債や地方債を中心にするよりも価格のブレが出やすくなります。

宮崎太陽銀行は、有価証券が約1,617億円(総資産の約2割)。内訳は社債が約650億円で、

  • 社債/証券:40.2%
  • 社債/総資産:8.0%
    という構造です。つまり量(総証券)はほどほどですが、社債比率はやや高め。同規模の地銀に比べ、金利+スプレッドの二重要因で価格影響が出やすい側に位置します。

比較すると、高知銀行(社債/証券41.1%、社債/総資産10.1%)は最も敏感なグループ。豊和(29.2%、5.4%)や筑邦(25.8%、6.3%)は中位。鳥取(21.0%、2.1%)東邦(13.1%、2.4%)南日本(13.3%、1.4%)は相対的に低感応。宮崎銀行(7.4%、1.4%)はディフェンシブです。宮崎太陽銀行は“中~やや高め”の価格感応度と整理できます。

チェックポイント

  • 評価差(OCI)の推移:自己資本への影響を早めに把握。
  • 社債の平均残存・期間:デュレーションが長いほど価格感応が増幅。
  • ヘッジと再投資利回り:金利上昇局面での評価差と利回り改善のバランスを確認。

宮崎太陽銀行は貸出中心で総証券は抑えめな一方、社債ウエイトが高いのが特徴。短期の金利上昇やスプレッド拡大局面では価格ブレがやや出やすいものの、資産全体を左右するほど証券偏重ではない、というのが現時点の立ち位置です。

中期経営計画と成長戦略:目標と現在地

宮崎太陽銀行の現行中期経営計画は
「To evolution and beyond(進化へ、そしてその先へ)」
を掲げています。地域経済の課題(人口減少・高齢化・企業の事業承継)に対応しながら、収益性と健全性を両立させることを基本方針としています。

数値目標(2025年度目標)

  • 経常収益:150億円前後を安定的に確保(目標水準とほぼ一致)
  • 経常利益:19億円程度(目標に僅差で届かず)
  • ROE:5%(3.08%と未達、課題残す)
  • 連結自己資本比率:8%以上維持(目標クリア)
  • PBR改善:市場評価を1.0倍に近づけることを長期目標と位置づけ(依然として市場評価は大きく割安)

成長戦略

1. 地域企業への成長支援

中小企業向け融資や事業承継支援、販路拡大支援を強化し、地元産業の持続的発展を後押しします。大学や自治体と連携したスタートアップ支援や産学官協働も推進し、地域経済の新しい成長エンジンを育成します。

2. DXと金融サービスの高度化

デジタル技術を活用して業務効率化を進めるとともに、オンラインでの相談・取引体制を拡充。顧客接点を広げることで、利便性の高いサービスを提供し、若年層や新規顧客との関係強化を狙います。

3. 人材育成と働き方改革

「人材こそ最大の資産」と位置づけ、職員の専門性向上や柔軟な働き方を支援。地域金融の担い手として自律的に行動できる人材育成を通じて、サービスの質向上と組織力の強化を目指しています。

4. サステナビリティと地域貢献

脱炭素やSDGsに関連する取り組みを重視し、環境配慮型の融資や投資を推進。地域社会とともに持続可能な成長を目指す姿勢を明確にしています。

まとめ-宮崎太陽銀行の強みと課題

宮崎太陽銀行は資本に余裕があり貸出中心の一方、株価の評価はまだ低い状況です。2025年3月期は経常収益約148.6億円、経常利益約18.9億円、自己資本比率(国内基準・連結)は約8.2%ROE約3.1%、PBR約0.16倍、PER約5倍と、指標面はいま一歩といったところです。

有価証券は資産の約2割(1,617億円)で、そのうち社債約4割(約650億円、総資産比8%)。このため短期の金利上昇スプレッド拡大評価がぶれやすい一方、証券が資産の大半ではないため影響は過度になりにくいのが特徴です。

貸出は地元中小向けが堅調。中期は金利の再設定で利ざや回復の余地がある一方、足元は預金金利の上昇で利ざやがやや圧迫されやすい点に注意が要ります。業界全体に低PBRが残る中、同行は「資本は堅い/社債比率はやや高め/株価は割安」の組み合わせで、金利上昇の第二波で見直しが入る余地があります。

社債や有価証券で考える今回調べた中でもう少し、総資産比率が低い銘柄もあったので調べていく予定です。

興味があれば今回は触れていませんが、群馬の第二地銀・東和銀行の記事もどうぞ 

参考文献/出典
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